「おおかみこどもの雨と雪」 細田守 (監督) 2012年
評価: 89点
この映画は、本当にいい映画である。
まず、やはり、自然の描写がすばらしいのだ。
引っ越し先の山村の景観、雨がヤマセミをとるシーン、そして、嵐のシーンも好きだ。さらには、引っ越してきた古い家で雨漏りしているシーン、おおかみこどもたちが駆け回るシーン...。
この映画の自然描写が好きな人は、「かぐや姫の物語」や、「愛しの座敷わらし」などもぜひ見てみるといいだろう。
それから、思わず笑いがもれるシーンもけっこうある。雪が友達に宝物を見せるシーンなどである。
○ かわいらしいキャラたち
そして、さらに気に入っているところは、キャラクターの絵である。おおかみこどもの雪も雨も、すごくかわいい。
自分は、宮崎アニメの登場人物の絵には、全然魅力を感じない。基本的に、かわいいとも思えないし、かっこいいとも思えない。例外は、「千と千尋の神隠し」のハクくらいである。他は、特にどうとも思わない。
この映画の、雪も雨も本当にかわいいと思うし、お母さんの花もかわいらしい。
そして、オオカミになったときの雪と雨もかなりかわいらしい。
この絵を見ていると、二人のことが心の底からいとおしく思えてくる。
○ 少しだけ無理のあるところ
ここで、一応、若干無理のある点にも触れておこう。
ちゃんと公平にそういうことも論じないと、期待して読んでくれている光太の批評の読者に申し訳が立たない。
では始めよう。
人間が一時的にオオカミになったり、また人間に戻ったりというのは、アニメーションだからかなりかわいく見えるが、さすがに実写でやったらこうはいかないだろう。
アニメなら、人間にオオカミの耳が生えたり、たてがみが生えたりしてもかわいいが、実写ではそうはならないと思う。
自分には、実際にこういうオオカミ男や子どもがいたときに、すごく愛くるしいものだという想像はあまりできない。
それからもう一つ、オオカミと人間の間に子どもができたとして、その両方の特徴を持つ子どもができることはまだありえるだろうが、自由自在にどっちにも姿を変えられるというのは、相当無理のある設定だろう。実際に、無理矢理やれば、ライオンとトラ、ロバとウマの子どもとして、両方の性質を持っている生き物を作ることができる。しかし、これは、時に応じてライオンになったりトラになったり変身するわけではないのだ。
まあ、そうではあるのだが、この映画のすばらしさはそんなことで減るわけではない。そういう設定であるものとして受け入れられる。
「崖の上のポニョ」や「借り暮らしのアリエッティ」の、全く支離滅裂な展開に比べて、こんなことはほとんど問題にもならない。(まさかそんな人はいないと思うが、もし宮崎映画の支離滅裂さを理解していない人がいたとしたら、ぜひ、「崖の上のポニョ」や「借り暮らしのアリエッティ」も読んでほしい。)
○ お母さんの花
このお母さん、花は、本当にいいお母さんである。
夫が亡くなって、一人で子どもを育てるのはすごくたいへんなのに、文句を言ったり、そのつらさを表に出したりしない。それどころか、つらいという否定的な感情を、そもそもあまり持っていないように見える。二人の子どもを持てたことの幸せが苦労を圧倒しているように見える。
二人のおおかみこどもたちが、どんなに困るような振る舞いをしても、子どもたちを叱ったり、怒りを爆発させたりすることは全くない。
わからないことがあったりすれば、自分で本を読んで知識を得る。
本当に尊敬すべき人物である。
しかも、かわいらしい。
子どもたちのために、ものすごく不便な田舎に引っ越すことを躊躇なく決める。田舎に住んで、どんなに生活がたいへんでも、文句を言ったり、悲嘆にくれたりすることはなく、いつも前向きで優しく子どもたちに接している。(「借り暮らしのアリエッティ」の、ヒステリックで頭の悪いお母さんとは全く対照的である。あんなおかしな人と対比しては、花に申し訳ないが...。)
野菜作りで失敗しても、くじけたりしない。
あまりに理想化され、現実にこういう人物はいないといっていいだろうが、物語においても、これほどけなげで魅力的な人物もあまりいないだろう。
○ 雨
自分は、いろいろなことを怖がる、子どもの頃の雨がすごく好きである。
何にでも挑戦する雪とは対照的に、いつもおどおどしていて、教室でも一人でいるが、そういうところがいとおしくなる。
多くのアニメなどでは、雪のような活発で明るい子どもが魅力的に描かれていて、おとなしい子どものかわいらしさが積極的に描かれていることはあまりない。
だが、実際、雨のような子どもはけっこう多いし、それは魅力的なことだと自分は思う。
自分自身は、今は人一倍意見をはっきり言ったりする大人に育ったが、子どもの頃は、もっともっと控えめだったので、雨の気持ちもよくわかる。
そして、雨は、最後に、オオカミとしての道を選ぶ。オオカミとして生きることが幸せだとは個人的には思わないし、絶滅したはずのオオカミが日本に存在しているということになれば、いろいろ面倒なことにもなるだろう。しかし、人間としての生き方のみを賛美して、結局それがいいのだと当然視するエンディングにしなかったことは評価していいだろう。
○ 最後に
この作品は、日本には、こんなにいいアニメ映画があるんだと思わせる映画だった。
みんな、意味不明でストーリーが破綻している宮崎映画などを観て喜んでいる場合ではない。
ぜひ、細田監督には、国際的な大きな賞を取ってほしいと思う。そして、世界の多くの人たちにこうしたいい映画を観てほしいと思う。
細田監督の今後の作品にも大いに期待する。
(完)
光太
公開 2015年9月6日