福島原発事故の放射線は危険なのか? (2)



これは(2)です。福島原発事故の放射線は危険なのか? (1)から読むのをおすすめします。



○ 野菜や魚の放射能

 福島県の一部の野菜や、茨城県や福島県沖で穫れたコウナゴなどから、暫定規制値を越える放射能が検出された。この暫定規制値は、2000ベクレル/kgである。ベクレル、などという言葉をあまり聞いたこともないだろうし、2000と言われると大きくて怖い値のように感じるかもしれない。実際に、これより放射能が低く、問題ないとして出荷されている野菜を恐れて買わない人々も多く、たいへんな風評被害が起きている。
 だが、病院で甲状腺の機能の診断をするに当たっては、100万ベクレルオーダーの放射性ヨウ素を子供や赤ちゃんにも投与しているということである。もちろん、これくらいの放射能を持つ放射性ヨウ素であっても、子供や赤ちゃんに対しても、害はない。害があるものを、単に診断のために、病院で使うはずがない(実際に病院で、そうした物質を日常的に使用している医師の方が、テレビで強く訴えていた)。具体的には、甲状腺画像診断のためには、1370万ベクレル、甲状腺摂取率機能検査には、370万−1110万ベクレルの放射性ヨウ素を使用するようである。さらに、腎臓の検査で使う、放射性物質テクネチウムの推奨投与量は、なんと、1億8500万ベクレル(成人に対する量)で、こちらも実際に普通に投与されている。これも、治療のためにリスク覚悟で使うのではなく、ただ検査のために使っているのであり、こちらも、もちろん害はない。
 例えば、コウナゴの放射能測定値のうち、一番高かった値は、1万ベクレル程度であったが、1万ベクレルは、100万ベクレル、1億ベクレルに比べたら、とるに足らない量である。また、放射性セシウムが検出された牛肉も一時期話題になったが、肉類のセシウムに関する暫定規制値は、500ベクレル/kgである。これらの規制値がどんなに厳しい基準値で、これをはるかに越えていたとしても、健康に害はないことがよくわかるだろう。


○ チェルノブイリ事故でさえも...

 チェルノブイリの事故は、福島原発の事故よりはるかに深刻なものであった。福島原発の事故の10倍程度の放射性物質が外部に放出されたと考えられている。しかし、あれだけ深刻な事故にも関わらず、子供の甲状腺ガンの増加以外に、周辺の住民たちに、この原発事故の影響として見つかった明確な健康被害はない。甲状腺ガンになってしまった子供たちにしても、汚染された牛乳を長年飲んでいたからということである。事故の処理に携わり、非常に多くの放射線を浴びた人の中には亡くなった人もいるし、その影響でガンになったひともいる。だが、周辺住民の大人に影響があったという報告はないということなのである。いろんな国の医療関係者などが、事故の後チェルノブイリ付近で徹底した調査を行っても、大人への影響や、甲状腺のガン以外の影響は見つからなかったのである。福島原発の事故よりもはるかにひどく、あれだけの大事故だったにも関わらず、周辺住民への影響は汚染された牛乳などを毎日飲んでいた子どもの甲状腺がんのみにとどまっていたのだ。


○ チェルノブイリの事故の大きな影響

 チェルノブイリでの被害は、放射線による健康被害それ自体よりも、長い間、いつ放射線の健康への影響が出てくるのだろうかと恐れ続けることによる心的外傷後ストレス傷害(PTSD)の影響が大きかったという報告もあるようである。恐れる必要のないものを恐れなければ、楽しく普通に生活できるのに、無理解から恐怖に陥って健康を害してしまっては元も子もない。
 例えば、家にいても、どこにいても、いきなりブラックホールが出てきて吸い込まれてしまうかもしれない、と荒唐無稽なことを勝手に想像して、恐怖のあまり何もできなくなり、ご飯も食べられず病気になってしまったとしたら、そんなに馬鹿げたことはないだろう。
 怖がる必要のないことを怖がる必要は全くない。


○ 大気核実験

 1950年代から1970年代にかけて、大気中で、核実験が500回以上も行われた。放射性物質の飛散を防止しようなどとは考えずに大気中で堂々と行っていた核実験なのだから、これにより大量の放射性物質が飛び散った。核実験により飛び散った放射性物質は、大気中に拡散し、1カ月もすれば、地球上の全てを覆った。当時の大気は、この時に飛び散った放射性物質で満ちていたのである。これは科学的に事実である。この当時、日本で測定されたデータもきちんと残っており、通常よりはるかに高い放射性物質が日本付近の大気中にも存在していたことを示している。しかし、当時、何らかの病気が今よりも多かったなどという報告はない。そして、その後何十年たっても、そのときの影響でガンが増えている、などといったこともない。
 核爆発が起こったその場所では、もちろん、高いレベルの放射性物質が観測されたが、距離が離れれば放射性物質の濃度は薄まる。少し離れるだけでも影響は急激に小さくなっていき、すぐに人体に全く影響のないレベルになるからである。


○ 原爆

 日本では、1945年に、広島と長崎に原爆が落ちた。そして、多くの人たちの命が、一瞬で奪われたり、その後も、多くの人たちが、放射線を被曝したことによる後遺症に苦しんできた。このときにも大量の放射性物質がまき散らされた。だが、その影響は、京都や大阪、福岡などに及んだだろうか?それらの離れた都市で、どれだけ、この原爆投下による健康被害があっただろうか。そんな話を聞いたことはあるだろうか?東京にいながら、福島原発の影響を恐れている人もいるが、そんな必要は、少なくとも現時点では、全くないだろう。


○ 放射線と遺伝

 「クロワッサン」という雑誌が、2011年6月25日発売号の表紙に、「放射線によって傷ついた遺伝子は、子孫に伝えられていきます」と書いた。そして、その後、「クロワッサン」は、「不適切で配慮を欠いた表現」があったとして謝罪した。
 「クロワッサン」が書いた内容は、全くのでたらめで、原爆の被爆者や福島の人たちへの差別をあおりかねない、許されないものである。
 放射線を受けた人が産んだ子供に悪い影響があるかどうかは、ちょっと調べれば、きちんとした調査があることがすぐに分かる。広島・長崎の原爆で被爆した人たちとその子供を対象に、流産、死産、奇形、がん、染色体異常、小児死亡などを調査した結果(数万人規模の信頼性の高いもの)が存在する。この調査は、被爆後40年間を対象としており、期間としても十分に長く、安心かつ信頼できるものである。これによれば、被爆者の子供たちにこうした影響は全く見られなかったということである。原爆で被爆した人の子供にすら、こうした影響はなかったのだから、福島原発事故により浴びた放射線程度では、遺伝子に影響があることなどありえないと言えるだろう。
 こうしたしっかりした調査が存在することは、少し取材すればすぐにわかるはずであり、「クロワッサン」が無責任に不安をあおった罪は非常に大きい。表紙の文章は、生命科学者の柳澤桂子氏のインタビュー記事の一部を抜き出したものであるが、生命科学者であるにもかかわらず、実際の調査の結果を学びもせずに、フィーリングに基づいてインタビュー記事で誤った情報を広めるなど、とんでもないことだと思う。
 福島原発で浴びた放射線が遺伝するのではないかと恐怖におののき、子どもを産むのを控えたり、中絶を考えたりする人までいるらしいが、こういう情報に惑わされてはいけない。


福島原発事故の放射線は危険なのか? (3)に続く!

時間のない人は、福島原発事故の放射線は危険なのか? (4)へ!


[参考文献]

○放射線影響協会, 1996: 「放射線の影響がわかる本」
      放射線による流産、死産、奇形、がん、染色体異常、小児死亡などへの影響調査結果も載っている。

光太
追記 2011年8月09日
公開 2011年4月23日

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