福島原発事故の放射線は危険なのか? (1)


 福島原発の事故が起きてからというもの、あまりにも非科学的な、恐怖をやたらにあおっている雑誌などが目についた。ネット上にも、その人自身が放射能に対する恐怖に陥ってしまい、人々をただ不安にさせるだけの、正しいとは言えない情報を次から次へと流している人も多い。そして、これらを見聞きして、実際におびえている人も多い。さらに、こうしたおびえから、風評被害もたくさん起きている。

 ここでは、放射線の影響に対する、科学的な知識、そして、恐怖をあおるだけの不正確な情報が流布している理由のいくつか、及び、そうした情報が及ぼす影響をまとめておくことにする。

 こうしたことを知らなかった人たちは、ぜひ安心してもらいたいし、安易に、不正確な情報を流すのはやめてほしいと思う。


○ 放射線をどの程度浴びると危険なのか?

 福島原発事故で、一般の人たちの中で、これまでの積算で、100ミリシーベルトの放射線を浴びた人は一人もいない。現時点では、10ミリシーベルト浴びた人もいないと思う。
 では、仮に100ミリシーベルトあびると何が起こるか知っているだろうか?
 チェルノブイリや原爆で被ばくした人たちを対象とした、信頼できる詳しい研究によれば、100ミリシーベルトの放射線をあびると、がんの確率が、通常30%程度なのが、30.5%程度になるというのが調査の結果である。つまり、200人の人のうち、がんになる人は、普通は60人である。もし、100ミリシーベルトの放射線をあびた人が200人いたとしたら、このうちがんになる人は、平均的には61人になるということである。放射線をあびた時の危険がどの程度のものかわかってもらえただろうか?
 がんになる確率を上げるのは、放射線だけではない。国立がんセンターが、非常にわかりやすい資料を示している。一番下にサイトを示しているので、興味のある人は見てほしい。  例えば、野菜不足でもがんの確率は上がる。その場合のがんの増え方は、放射線を100-200ミリシーベルト受けたのと同じである。つまり、野菜不足だと、今まで、福島原発事故では、一般人では誰もあびたことのないくらいの大量の放射線をあびたのと同じなのである。放射線の影響を怖がるなら、野菜不足をもっと怖がった方がはるかに意味がある。そして、肥満ややせすぎ、運動不足でもがんの確率は上がる。そのときの危険性は、なんと、200-500ミリシーベルトの放射線をあびたのに相当する。つまり、放射線を気にしている余裕があるのなら、肥満の人は食べるのをやめ、やせすぎている人はもっと食べるようにし、運動不足の人は早く運動を始めたほうがよい。そして、喫煙に至っては、1000-2000ミリシーベルトの放射線をあびているのに対応するのである。
 これまで、肥満ややせすぎ、運動不足をそれほど怖がってきただろうか?大して恐怖など感じていない人がほとんどであろう。つまり、放射線を200-500ミリシーベルトあびても、健康への影響はその程度なのである。
 なお、世界平均では、年間2.4ミリシーベルト(日本では、年間1.5ミリシーベルト)の自然放射線を浴びているが、ブラジルやインドなどでは、年間10ミリシーベルトの放射線を浴びている地域もあり、こうした地域では、10年間で100ミリシーベルトの放射線を浴びることになるが、そうした地域でも、特にガンなどが多いということもない。また、パイロットは、東京−ニューヨーク間を一往復すると0.2ミリシーベルトの放射線を浴びるため、年間100往復なら一年で20ミリシーベルト、10年で200ミリシーベルトになるが、パイロットにがんが多いという話も聞いたことはないだろう。
 恐怖をあおる報道に接して恐怖に陥っている人も多いと思うが、いいかげんな報道に惑わされるのではなく、信頼できる情報をちゃんと選び取り、まずは、冷静に、この事実を見つめよう。


○ 観測されている放射線の量

 たとえ積算で100ミリシーベルトの放射線をあびたとしても、健康への影響は、野菜不足よりも少ないことは上で述べた。
 この積算100ミリシーベルトがどれくらいかと言えば、1時間当たり100マイクロシーベルトの放射線量を1カ月間浴び続ければ、それくらいの値になる。だが、実は、100ミリシーベルトも、原爆などで一気に浴びるのと、少しずつゆっくり浴びるのとでは、影響は異なり、少しずつ浴びれば、人間の細胞には放射線によるダメージを自己修復する能力があるため、影響は少ないことがわかっている。つまり、100マイクロシーベルト/h(1時間当たり、を"/h"と書く。)の放射線を1カ月浴びても、人体に何らかの影響が出る可能性は、実際上、ほとんどないとされている。
 怖がっている人たちの多くは、特に根拠はなく、ただ、〜かもしれない、という憶測だけに基づいて怖がったり発言していることが多いのであるが、こうした定量的な数値は、上でも述べたとおり、チェルノブイリ事故や過去の原爆などの影響を、専門家たちが地道に調査し、慎重に分析した結果として得られたものである。
 では、観測されている値について考えていこう。まずは、事故直後の、比較的放射線量の高かった時期について考えてみる。東日本大震災の後で観測されている値は、福島原発の敷地内を除けば、事故直後でも、この100マイクロシーベルト/hより遙かに低かった。福島原発の事故の後、福島県内の、放射線量の比較的大きいところでは、10マイクロシーベルト/hといった値が観測された。これらの値は、通常の放射線の、0.05マイクロシーベルト/h程度に比べ200倍くらいの大きさになるが、100マイクロシーベルト/hの放射線を1カ月間浴び続けても問題ないのだから、この程度の値は、全く気にする必要はない。
 次に、比較的長いスパンで考えてみることにする。例えば、1年間かけて、100ミリシーベルト浴びると考えると、10マイクロシーベルト/hくらいの放射線量を浴び続けることに相当する。確かに、原発から10kmそこそこで、放射線量が周りに比べて極端に高い浪江町などでは、10マイクロシーベルト/hを超える放射線量が観測されている。だが、ここの住民は避難している。そして、ここまで弱い放射線量となると、積算で100ミリシーベルトに達したとしても、健康への害はほとんど考えられない。しかも、測定されている値は、屋外の値であるが、家の中にいれば、浴びる放射線量はその値の1/4から1/10程度になるので、ますます影響は小さくなるのである。また、関東付近でホットスポットだと騒がれている場所もあるが、せいぜい、0.5マイクロシーベルト/h程度である。これだけ低ければ、もはや人体に影響がある可能性はないだろう。
 人々をただただ恐怖に陥れるような報道や、無責任で不正確なネットの情報に惑わされるのではなく、不安になったら、原爆の被爆者やチェルノブイリ事故の周辺住民への健康被害の詳しい調査報告書も公開されているし、現在の日本の測定されている放射線量の観測値も、インターネットで誰でも手に入れることができるので、自分自身でチェックしてみるとよいのではないだろうか。
 政府が決めた20kmの避難指示地域、及び、飯舘村などの計画的避難区域は、かなり安全に配慮して決めている範囲である。実際に、浪江町などで観測されている放射線量でも、上で述べたように人体への影響はないといってよいと考えられ、本当に人体に影響のある可能性が少しでもあるのは、福島原発から、半径5km以内程度であろう。福島原発から、半径5km以内に入ることは避けたほうがよいと思うが、そうでなければ、不安になる必要は全くないだろう。福島原発から50kmも離れれば、ずっと外にいても、全く何の問題もないレベルであり、ましてや東京に住む人などは、何も気にする必要はなく、それを心配する時間があるなら、野菜不足や運動不足を解消したり、年間5000人もの死者を出している交通事故に対して真剣に備える方がはるかに重要なことだろう。原子炉のメルトダウンが起きていたなど、当初考えられていたより、事態が悪い状況であり、また、放射線量がどんどん下がってきている状況ではないのは確かであるが、きちんとしたデータに基づいて、本当にどのくらい危険なのかについての正確な知識を持っておくことが非常に重要である。



福島原発事故の放射線は危険なのか? (2)に続く!

時間のない人は、福島原発事故の放射線は危険なのか? (4)へ!


[参考文献・サイト]

○国立がん研究センター, 2011: 「わかりやすい放射線とがんのリスク」
      放射線によるがんのリスクと、野菜不足、肥満、やせすぎ、運動不足、喫煙などのがんのリスクとの比較。

光太
追記 2011年8月09日
公開 2011年4月23日

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