ゲド戦記 (1)


「ゲド戦記」   宮崎吾朗 (監督) 2006年

評価: 43点


 この映画は、スタジオジブリの映画である。だが、ご存じのように、監督をしたのは宮崎駿ではなく、その息子の宮崎吾朗である。

 この映画を見るよりずっと前に、この映画の原作である「ゲド戦記」の作者による、この映画に関する声明を読んでいた。

 詳しくは、こちらのサイトに日本語訳があるが、趣旨を簡単に要約しておく。
 「ゲド戦記」を書いたアーシュラ・K・ル=グウィンは、過去に、宮崎駿から、これを映画化したいという要望を受けていたが、アニメ映画というものにあまりよいイメージを持っていなかったこともあり、その要望を断っていた。その後、この原作者が「となりのトトロ」を見て感銘を受け、宮崎駿に映画化のOKを出した。ところが、宮崎駿は、自分はもう引退するから、息子に映画化させることにする、その制作には自分が関わるため、安心してもらいたい、という説明をし、この原作者の承諾を得た。ところが、宮崎駿は引退もせず、また、この映画の製作には一切関わらなかった。原作者は、こうした対応にひどく失望した。また、映画自体についても、原作とは全く異なるもので、また、原作に込められた思いも反映されていないことにがっかりしたということであった。
 原作者の文章の日本語訳を読めばわかると思うが、原作者の声明は、非常に理知的で冷静な文体である。宮崎親子から、これだけひどい対応をされた怒りは相当なものだと思うが、声明では理性を失わずに、淡々と経緯を記述しており、好感が持てる。この内容はかなりの程度、信頼に足るものではないかと推測される。

 そして、この映画を見た一般の人たちによる、映画の評判も読んでいたのだが、それらもかなり微妙で、概して評価は低かった。
 そのため、長い間、自分はこの作品は見ないでいた。
 それというのも、「ハウルの動く城」や「崖の上のポニョ」を見たとき、その支離滅裂さに憤りの念が沸いたという経験があったからである。そして、その怒りは、かなり強いものであった。
 そうした中で、そもそも評判もよくないこの映画を見て、また不快な思いをするのはまっぴらだと思っていたのである。

 ところが、新聞のテレビ欄で、この「ゲド戦記」の放送があることを知った。そして、「まあ、テレビならどうせただなんだし、やっているなら、はじめだけでもちょっと見てみよう。批評を書いている観点からは、宮崎映画が支離滅裂になってきているのをきちんと確認するのも重要なことだ。不愉快になってきたらすぐ見るのをやめよう。」と思って、見始めたのである。


 ...そして、結局、最後まで見た。


 この映画は、特段、論ずることもない、主人公が悪い魔法使いを倒す、という、ごくありふれた物語であった。

 この映画の世界観には、特に、独創的な点も見られない。

 そして、その悪い魔法使いが、この世界に対してどれだけの悪いことをしているのかもよくわからなかったし、この魔法使いに、あまり巨悪や奥深い闇のようなものは感じなかった。何百万もの軍勢や手下を率いているわけでもなく、できの悪い手下が数人しかいない。この魔法使いは、全く手強くない、ザコキャラのように感じた。
 もちろん、現実社会を考えてみると、人々を恐怖に陥れる超凶悪な人物と言っても、生身の人間であり、せいぜい何十人かの人を残虐に殺している程度であろうから、魔法を使って自由自在に人を殺したりできる能力を持っているキャラクターというのは、現実に存在するとすれば、非常に恐るべき存在であろう。麻原彰晃やオサマ・ビン・ラディンの比ではない。むしろ、一般のアニメや映画では、ほとんど対抗不可能な能力を持つキャラクターを敵として設定しているので、そちらが本来不自然であって、この程度の敵の強さの設定の方がむしろ自然なのかもしれないのだが...。

 いずれにしても、このように、この映画には独創性はあまりなく、敵役が全く恐ろしそうではないことも微妙である。


 だが、非常にすばらしいことに、ストーリーが全く支離滅裂ではないのである!!


 展開は自然であり、なんと見ていて、”だいたいは”意味が分かるのだ!!


 最近の宮崎駿の、支離滅裂なストーリー展開や意味不明で全くおかしい台詞がないのである。

 これだけで、大いに評価に値する。

 この映画に、宮崎駿が監督したのと同様の支離滅裂さを予想し、憤りを感じることを覚悟して見ていた自分には拍子抜けだった。

 宮崎の息子の方は、常識的な考え方を持ち、普通の論理的思考ができる人間であり、そうした当たり前の論理に従って映画を構成できる人間だと思った。

 これなら、今後、全ての映画を、息子の方が構成した方がはるかにいいと思った。

ゲド戦記 (2)に続く!

光太
公開 2011年1月7日

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