運命の人 (1)


「運命の人」   (TBS) 2012年

評価: 94点


 また、山崎豊子原作のすばらしいドラマが制作された。

 山崎豊子原作のドラマは、基本的に、どれも非常によくできている。自分は原作はいずれも読んでいないが、もちろん、原作がどれもすばらしいのだろう。


○ 外務省機密漏洩事件がだいたい理解できた!

 この作品の題材になっている外務省機密漏洩事件(西山事件)については、中学の公民だったか、高校の現代社会の授業で少し話を聞いたことがあった。だから、そういう事件があったことだけは知っていた。
 しかし、詳しく教えてもらったわけでもなかったので、どういうものかはよくは知らなかったのである。
 もし、そのときの先生が、「知る権利」派で、これは密約が明らかになってしまったことから国民の目をそらせるための政府による不当な裁判だという強い立場で紹介していたら、何となく意味もつかめたかもしれない。だが、そうでもなく、また、逆に、新聞記者が体の関係を使って外務省の女性職員から機密情報を得た事件だったというような説明でもなく、淡々と紹介されただけだった。なので、自分には、その事件をわざわざ社会の授業で習う意味があまり分からなかったのである。

 さて、このドラマは、実際の事件を題材にしたフィクションということなので、展開をよりドラマチックにするために、いろいろな点で現実とは異なるだろうが、実際の事件の経緯も、大筋において、だいだいこのようなものだったようである。今回、このドラマを見て、この興味深い事件の経緯と意味がだいたい理解でき、自分には非常によかった。


○ 非常に興味深いドラマ

 また、この時代の政治状況はきわめて興味深いが、これまで自分はそれをあまり詳しく知ることはなかった。このドラマを見ていても、当時のことがいろいろわかったし、ドラマを見ながら、いろいろ気になってネットで当時の総理大臣やこの事件を巡る実際の政治家や記者や官僚たちについて調べてみたが、非常に興味深かった。
 現代の政治やそれをとりまく状況もおもしろいが、この時代には、さらに興味をそそられる政治的背景があり、より力を持った政治家たちが生きていた。そのため、そうしたことをふりかえるきっかけを与えてくれたという意味でも、このドラマを見て非常によかったと思う。

 ちょっと話がずれるが、山崎豊子の小説の登場人物たちのネーミングはきわめておもしろい。実際の人物たちの氏名や会社名を少し変えて登場させるのだが、自分にはその名前の変え方が非常におもしろい。毎日新聞が毎朝新聞、読売新聞が読日新聞、田中角栄が田淵角造、大平正芳が小平正良...。うーん、そうきたかー、と思う。山崎豊子もたぶん、かなり楽しんで名前を考えているのだろう。

 このドラマのストーリー展開は、なかなか手に汗握る展開である。裁判ものというのは、結果が白黒はっきりすることもあり、展開が非常に気になる。

 また、政治家や弁護士や新聞記者をはじめ、登場人物たちは比較的年齢が高いため、日本の実力派俳優たちがそうした役に配され、重厚な作りになっている。

 また、さらにおもしろかったのは、このドラマの登場人物のモデルである、読売新聞の渡辺恒雄や、主人公である西山太吉が、このドラマの放送に反応して、怒ったり、コメントをしたりしているところである。そんなに昔のことではない現実の事件を元にしているから、まだ生きている人物たちからそういう反響がありうるのも当然であるが、そうした生の反応まで楽しめて非常におもしろい。


○ 低かった視聴率

 このようにこのドラマは非常に質が高く、興味深いドラマだが、やはり視聴率は低かった。10%に届かなかったこともあった。

 しかし、この内容のドラマを、10%をちょっと越えるくらいの視聴率、つまりは、人口の10%程度が見ていたというのは、内容から考えれば非常に多くの人に見られたといってよいと思う。

 山崎豊子原作のドラマは、基本的に硬派な内容が多い。だが、「白い巨塔」では、大学医学部の実態の一部を、教授選というわかりやすい内容で描き、しかも、医学的な高度な内容ではなく、きわめて大衆的などろどろした愛憎劇として描いた。そして、「華麗なる一族」では、製鉄業を成功させたいという青年の志を、スキャンダラスな秘密を持った家族の対立を絡めて描いた。それらに比べ、このドラマのテーマはさらにかなり硬派である。女の憎しみというのはわかりやすいかもしれないが、感情移入するには、政治的な裁判の内容をある程度理解しなくてはならない。また、上のような作品は、完全にフィクションとして作れるので、ストーリーもよりドラマチックにしやすいが、このドラマは、ある程度実際の現実に即した展開にしなければならないこともあって、ドラマチックにするにもいろいろな制約がある。

 そうした中で、10%そこそこの視聴率をあげたというのは、むしろ健闘といってもよいだろう。

「運命の人 (2)」に続く!



光太
公開 2012年6月10日

気に入ったら、クリック!  web拍手 by FC2
光太の映画批評・ドラマ評・書評・社会評論