白い巨塔


「白い巨塔」   (フジテレビ) 2003年

評価: 95点


   このドラマは、見始めると、展開が気になって気になって仕方なくなる。このドラマの、人を集中させる力は圧倒的で、これほどのストーリーは他にほとんど例をみないと思う。
 テレビ放送でこのドラマで見ているときには、一週間が待ち遠しくて仕方なかった。そして、ドラマが終わってしまった後は、日常生活に言いしれぬ空虚感を感じたと言ってもよいほどであった。中学生や高校生ならともかく、大の大人にそこまで思わせるというのは本当に傑出したドラマであったのだと思う。

 ストーリーの根幹は、つきつめて言ってしまえば、単に、教授選挙で財前が教授になれるのかどうかというごく単純なものなのであるが、見る者をこれほど引きつけるストーリーを持つ作品に出会うことはもうないかもしれないと思う。

 テレビでこのドラマが放送されていた当時、自分の周りでは多くの人がこのドラマの話をしており、財前派か里見派かで盛り上がっていた。自分自身は完全に里見派であった。医師でありながら、医療行為を、人を助けてあげたいという気持ちから行うのでは全くなく、自分自身がのし上がるためなら何でもする財前は、自分にとっては忌むべき人物であり、友人たちの中に、財前の方に肩入れする人々が存在することが自分にはそもそも理解できなかった。
 そうした友人たちに、どうして財前の肩を持つのかを聞いたところ、里見はきれいごとを言っているが、実際の社会では自分自身のために生きるのは当然のことであり、自分の家族も満足に養っていけないのはどうかと思う、といった返事であった。 だが、自分には、いくらそういった理由があるにせよ、患者を人とも思わない財前に肩入れするのは全く理解できなかったのだが、人それぞれいろんな考えがあるのだと、当時、改めて興味深く思った記憶がある。
 また、女でも男でも、財前の強いキャラクターに惹かれていた人も多いようであった。それはいくらなんでもマゾヒスティックで従属的な態度すぎないかとも思うのだが、自分勝手な目的であろうがなんだろうが、そういう強引な人が好きだというのだから、まあ、仕方ない。

 さて、それだけ集中して見たドラマであるが、ドラマを見ていて、どうも、登場人物たちのキャラクターや人間関係に対して不自然さを感じることがあった。

 端的に言えば、登場人物たちのキャラクターの個性があまりにも極端に強調されているのである。ここに出てくるような人物たちには、日常生活で出会うことはない。実社会でこの登場人物たちのような振る舞いをしていたら、人々から嫌われて終わりである。もちろん、ドラマなのだから、ある程度ステレオタイプに描くのはいいのだが、このドラマの登場人物たちは、ほとんど子供のアニメと同じくらい個性が極端に強調されていて、ドラマにおいて微妙な心の動きや微妙な人間関係を描くのがほとんど無理なレベルなのである(個人的には、伊武雅刀のコミカルな演技などはひどく気に入ってはいるのだが...。)。

 そして、それにも関連して、ストーリー展開にもちょっと納得できない部分があった。中でも、ラストの展開が最も不自然に思った。ドラマ中、財前と里見は、お互いに対して、互いの技術に対する信頼はあっても、人間的信頼は全くないように見えた。が、ラストで二人の関係が突然接近したように見え、これが自分にはかなり不自然なストーリー展開に思えた。

 また、里見は、考え方の全く違う財前をたいへん思いやる場面がしばしば出てくるが、どうしてあれほどまで思いやることができるのだろうか。かつて一緒に勉強していたからといって、考え方の全く違う人物をそこまで思いやれるものだろうか。多少考え方が違っても友情は別、というのはありうることだとは思うが、財前の場合は、患者のことを全く思いやらないという致命的な点で里見とは異なっているのである。いくら人間的に優しく寛大な人間といえども、こういう態度というものが人間としてありうることなのか、自分にはよくわからない。

 このドラマを全て見終わった後、1978年の田宮二郎版の「白い巨塔」を見てみた。こちらのバージョンにおける財前と里見は、普段から一緒に食事をしていたりして、本当に友人に見えた。普段からこういう関係なら、ラストの展開も全く不自然ではなかった。それに、こちらの登場人物は、どの人物も普通にいるような人間として描かれていたため、ドラマ中の人間関係も納得いく自然な感じで進んでいた。

 ただし、自分にとっても世の中の平均的な多くの人にとっても、ドラマとして集中して見れるのは、新しい唐沢版の方であろう。田宮版では、俳優や女優たちがかっこよくもなくきれいでもないのに対し、唐沢版ではキャスティングも超一級なのでビジュアル的にも楽しめる。また、田宮版では、人間関係などが濃密にじっくりと描かれてはいるのだが、やや間延びして退屈な感じもないとは言えないのに対して、唐沢版では次々にいろんなことが起こって、よりテンポが速くスリリングな展開になっている。

 さて、個人的には、このドラマの登場人物たちの中で、里見を暖かくバックアップしてくれる大河内教授がとても気に入った。ああいう人物がいる職場に身をおければ幸せだと思う。

(完)

光太
公開 2011年5月4日

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