少年H (映画)


「少年H」    水谷豊 (出演) 2013年

評価: 89点


 この映画は、第二次世界大戦を一般の人々の視点から描いた非常に優れた作品だと思う。

 自由や言論を抑圧する恐ろしい社会、行きたくないのに無理やり出兵させられる若者、過去に外国人と交流があったというだけで拷問にかけられる人々、上官からの過酷ないじめと暴力、他の子どもにも愛国を強いる子ども、大空襲で焼け死ぬ人々、食糧難による耐えがたい空腹の毎日...。

 戦争中のこうした現実を、戦争を知らない我々に伝えてくれる、すばらしい作品である。

 戦争の過酷さ・残酷さを描いた作品には、他に「火垂るの墓」、「二十四の瞳」、「私は貝になりたい」などもあるので、見るといいと思う。

 そして、何よりもよかったのは、Hのお父さんである。
 Hのお父さんは、Hが小学生の頃から、Hを対等な人間として扱っている。決して子ども扱いなどすることはない。
 このような父親を持った子どもは、本当に幸せだと思う。
 ヨーロッパでの第二次世界大戦におけるユダヤ人収容所を描いた「ライフ・イズ・ビューティフル」という作品があるが、自分はその作品を見て、全然共感できなかった。そこに登場する父親は、ナチスの収容所にいるのに、子どもに対して、「かくれんぼだよ。」などと、のんきなことを言っていた。自分は、いくら小さな子どもであっても、子どもを信頼してきちんと真剣に話すべきであると思う。このあたりのことは、「ライフ・イズ・ビューティフル」に詳しく書いたので、興味のある人はそちらも読んでほしい。
 それとは対照的に、スペインの内戦を描いた「蝶の舌」という作品では、そこに出てくる先生は、主人公の子どもに対して、真実をきちんと伝える。「少年H」を見て、スペイン映画「蝶の舌」の先生を思いだした。
 自分も、こんな父親を持ちたかったなあと思う。
 そして、自分も、こんな父親になりたいと思う。

 「少年H」の原作には、歴史的事実に誤りがあるのではないかという批判もあるようだが、この映画では、誤りがあるような点は修正してあるようだ。
 仮に細部に誤りがあるにしても、日本にとってもアジアの人にとっても本当に過酷だったあの戦争を、一般市民の視点から描いた「少年H」は、非常に優れた作品であると思う。映画版は、誤りを修正してあるということなので、さらに安心して見られるだろう。

 最近、日本では、戦争を経験した人たちのほとんどが亡くなって戦争の記憶が薄れ、戦争に対して抵抗感もなくなってきているようだ。武器輸出ができるようになり、日本が攻撃されていなくても自衛隊が海外で武力行使をできるようになりつつある。自由に発言したり、政府を批判したりすることも、ネット右翼のような勢力からバッシングを受けたり、また、テレビなども政府への批判を自己規制したりしている感がある。安倍政権は、気に入らないテレビ番組に注文をつけたり、自民党はそうした放送局を呼び出したりして、圧力をかけている。愛国という言葉があふれ、国賊、売国奴、といった中傷が週刊誌の大見出しに平然と使われるようになった。
 そうした中で、言論の自由が完全に抑圧された時代や、戦争の悲惨さを伝えてくれるこのような作品は非常に貴重である。
 多くの人に見てほしい。

(完)

光太
公開 2015年5月7日

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