医龍


「医龍」    (フジテレビ) 2006年

評価: 91点


「医龍2」   (フジテレビ) 2007年

評価: 85点


 ここでは、医龍1、及び、医龍2の感想を述べる。

 端的に言って、このドラマは、非常によくできている。1回1回が感動的で、大いに見る価値があるドラマである。ドラマは数あるといえども、1年に1つ生まれるかどうかの作品だと自分は思う。

○ 医龍1

 医龍1の第一話を見たときには、実は、このドラマを見るのをやめようかとも思った。それは、登場人物たちが、わざとらしくつっぱったような感じで振る舞っており、変に偽悪的に見えたからである。善良そうな優しい人物や笑顔をみせる人物などはおらず、ほとんどの登場人物がただ利己的に行動しているように見えた。こういう人間たちをかっこいいと思うだろ、とでも言いたげなドラマの作りが非常に嫌な感じがしたのである。不良や暴走族にあこがれる中学生じゃあるまいし、ばかばかしいと思ったのである。しかも、そうした人物が一人くらいならまだしも、ほぼ全員がそんな感じであった。それはあまりにも不自然だと思ったのである。

 ところが、医龍1の第2話くらいから、すごく感動し始めた。
 このドラマは、純粋なヒューマニズムの観点を重視した、涙なくしては見れないドラマだった。

 例えば、「白い巨塔」の財前は、腕が非常にいい外科医という意味ではこのドラマの朝田龍太郎(坂口憲二)に通ずるものがあるが、このドラマの浅田は、一見クールに見えるところがあっても、内面は完全な善人であり、財前のように利己的目的のために患者を利用するようなことは決してしない。

 ブラックジャックは、やはり腕が非常にいいという点、及び、ヒューマニストであるという点では、浅田に似ているが、ブラックジャックは、お金がないと治療を断ろうとしたり、何か、行動が不合理な印象を受けることが多い。治療を引き受けるかどうかの基準が、場当たり的な気がすることがよくある。それに比べて、浅田は、たとえ自分に不利益があっても徹底して患者を助ける、ものすごくいい医者なのである。

 あのBGMを聴いただけで、数々の感動的なシーンがよみがえってくる。
 最近、こうしたヒューマニズムはどうも煙たがられる感もある。そうした中で、こうしたヒューマニズムを真正面から描いたこの作品は非常にすばらしいものだった。

 最初に見るのをやめなくて本当によかったと心から思う。


○ 医龍2

 そして、医龍2では、堕落してやる気もない北洋病院の医者たちが、すばらしいチームになっていくのだが、これがまたいいのである。最初彼らを見たときは、医龍2ではこんなどうしようもない奴らが登場人物なのか、見た目も冴えないし、さすがにいくら何でも...、と思った。ところが、やっぱり彼らが立ち直っていく姿に感動した。もちろん、彼らが結局はチームに加わっていくのは最初からほぼわかっているのだが、それでも見ている人々を存分に感動させるのである。

 彼らの職業上の能力は、普通の人間の能力を不自然なほどに凌駕しているのは確かである。このドラマで描かれていることは現実には起こりえないことなのだとは思う。
 それに、設定も、毎回感動を呼び起こすようなストーリー進行になっているのはよくわかる。が、それでも、見ていて決してさめてしまったりすることなく、感動させられるに十分なドラマだった。

 また、次回へのつなげ方も非常によくできている。ドラマの最後の方で、何か不可解な映像を、戦略的に差し挟んでいるのである。次の展開を見たくて仕方ないという気分にさせる点で、「白い巨塔」にはさすがに及ばないにしても、かなりのレベルに達している。
 自分はこのドラマを全部録画してから見たから穏やかな気持ちで見れたが、一話ずつ見ていたら、翌週まで気になって待ちきれなかったかもしれない。

 もう一つ、このドラマのいい点をあげよう。
 それは、ドラマ中で恋愛を絡めていない点である。だいたい、一般的に、ドラマであれ、映画であれ、すぐに恋愛を絡ませる。まあ、それが好きな人たちが多くいるので、恋愛を絡ませると容易に見てくれる人を増やせるということなのだろう。だが、本質的でないそうした部分が入ってくるのは、自分は基本的に好きではない。そもそも自分は、恋愛はさして重要なことだとも思わないし、仮に恋愛に重きを置く人がいたとしても、恋愛はその人の人生の何割かを占めるものにすぎない。世の中のほとんど全てのドラマや映画が、恋愛をかなり中心的な題材として取り上げているのはあまりにも偏っていると思う。また、メインには別のことを描いているのに、とってつけたように恋愛的な要素を入れるのも好きではない。だから、恋愛の要素を入れずに純粋にヒューマニズムだけで勝負しているこのドラマには、自分は非常に好感を持つ。

 ただ、ドラマというものは、ドラマチックな展開にしようと作られているため、そもそも不自然な点がたくさんある。だが、このドラマは、かなりよく作ってあって、そういう点は少ない。しかし、その中から、あえて、いくつか、えっ?と思ったところを挙げておく。

 そもそも、数多く出てくる手術シーンで、厳しいタイムリミットが設定され、カウントダウンが始まるのも不自然だ。体内に時限爆弾を仕掛けられたわけでもあるまいし、そんな状況は普通ほとんどあり得ないだろう。だがそれは、ドラマの緊張感を高めるのに必須なところもあるので、そういうことがよく起こる架空の世界の話だと割り切って考えることにして、置いておくことにしよう。

 不自然に思ったことの一つは、例えば、医龍2の最終盤、伊集院が、移植するための心臓を持って走るシーンである。急いでいるとは言え、奇跡的に入手できた心臓を、あんなに乱暴に扱ってだいじょうぶなのだろうか?
 それに、伊集院が自力で山を下りようとして山道に分け入り、山道で歩けなくなっているところで、病院側が連絡を受けて、ヘリが助けにくるわけだが、ここで、どうやって、連絡が取れたのかわからないのである。もし、最初から携帯電話や無線などで連絡が取れたのなら、山道に入っていって心臓を危機にさらすようなことは愚の骨頂である。最初からヘリを呼べばいい。それなのに、連絡もせず山に入っていった伊集院は厳しく責任を問われなければならない。伊集院の懸命さを演出しようということだろうが、あまりおかしな展開にするのはいかがなものかと思う。
 ついでながら、このとき、ヘリが空から現れず、地上から現れたように見えるのもよくわからなかった。

 まあ、そういった点もあったのだが、それは比較的少なかったし、まあいいことにしよう。


○ まとめ

 いずれにしても、このドラマは、不自然なところが比較的少なく安心して見ることができ、そして、純粋にヒューマニズム的観点から大いに感動できるすばらしいドラマである。
 医龍1、医龍2共に、涙なくしては見れない回も多く、感動すると言われている映画より遙かに感動した。おすすめドラマである。

(完)

光太
公開 2012年6月17日

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