リーガル・ハイ (第1シリーズ) (1)


「リーガル・ハイ (第1シリーズ)」   (フジテレビ) 2012年

評価: 83点


○ はじめに

 このドラマは、ちょっと変わっている。
 主人公の古美門弁護士が、実際にはどういう人物で、本当は何を考えているか、最後まで、全くわからないのだ。裁判で勝つためなら何でもする、高額の弁護料を取ることに目がない弁護士なのか、そう見えても、実は正義感を内に秘めた、ブラックジャックのような弁護士なのか...。
 最終話までそこはわからないが、最終話まで見ると、結局、内に秘めた正義感などなさそうだという、通常期待するのとは違う展開となっている。

 そして、このドラマは、一見いい人に見える人が、実はそうでもなかった、という展開になっていることが多い。そして、正義を疑え、というような内容になっていることも多い。

 時々、それが過剰な気がして、いい気分がしないときもあるのだが、逆に、けっこう重要な問題を提起しているときもある。


○ かなりおすすめの回

 例えば、ストーカーの回(第3話)は名作である。

 ある青年には、ストーカーの疑いがかけられていた。
 だが、原告側の女性は、実は、この青年との朝・夕の通勤を楽しんでおり、また、この青年から似顔絵をもらったのをとても喜び、それをずっと大事に持っていた。
 ところが、結婚したばかりのその女性は、裁判では、この男性のことを、ストーカーだと言い張った。この男性は、最初は自分はストーカーではないと主張していたが、その女性のかたくなな証言を聞き、(本当はストーカーではなかったのだが、)ストーカーだということを認め、裁判は終結した。
 いい人そうに見えた女性が、その男性のことを今でも恐らく思っていながら、裁判では決してそのことは認めない。そして、その女性は、結婚した旦那と楽しそうな結婚生活をしているようには見えない。にもかかわらず、裁判では、この男性がストーカーではなかったと認めない。恐らく、それを認めれば、結婚が破棄されてしまうか、破棄されなかったとしても、旦那からたいへんな仕打ちを受けることになるからだろうと自分は思った。このドラマは、結婚するということは、そういうものである、ということの一端を示しているのだろう。これは重要な示唆である。結婚により、素直なことは言えなくなるのである。また、これはある意味、女性のしたたかさを描いているとも言えるかもしれない。
 この被告の男性が、女性のかたくなな証言からそれを悟り、裁判を取り下げるところも、心を動かされる。また、この裁判を、黛弁護士の学生時代の記憶とオーバーラップさせる描き方も非常にいいと思った。


 子役の女の子とステージママであるその母親の回(第8話)も、なかなかよかった。
 普通のドラマでは、子供と親がうまくいっていなかったとしても、やっぱり、子供と親は一緒にいるべきだ、ということで終わることが多い。
 だが、このドラマでは、そうはならない。
 子供と実の親が一緒にいることが、子供のためによくないということも、実際あるのだ。
 それをこのドラマはきちんと描いている。
 一方、子供と親は一緒にいるべきだという意見も、古美門の父親の弁護などを通して、それなりに立てている。
 親が子供に害を及ぼす場合でも、子供と親が一緒にいるべきかどうかというのは、難しい問題であり、このドラマの一方的でない描き方は本当にすばらしい。
 ただ、最後、裁判での子供の証言が演技だった...、というふうにほのめかすのは微妙だと思ったが...。


 また、この第8話の「サンタクロース」のエピソードも、個人的にはすごくよかったと思った。一般的なドラマなどでは、サンタクロースがいると考えることが、夢があり、人間として豊かであることのように描かれることが多い。そして、サンタクロースはいないと考えるような子供や、それを子供に言ってしまうような大人は、夢を壊す、冷酷で人間性のない者たちとして描かれることが多い。自分は、常々、そういう描き方には反発を覚えてきた。
 だが、このドラマでは、一方的にそういう描かれ方はしていない。古美門は、「サンタクロースはいない」と子供の頃から考えていて、小学生の頃に、その「真実」をクラスメートに対して主張した。古美門は、サンタクロースがいないことは真実なのだから、その「真実」をクラスメートに言ったことで叱られるのは理不尽だ、とその時も、そして今でも思っている。
 自分も古美門に共感する。
 わざわざクラスメートにそれを言うのがいいかどうかは別として、「本当のことを言ったのに...。」という古美門少年の気持ちはすごくよくわかる。
 明らかな嘘をみんなで信じたふりをすること、子供にそういうストーリーを信じさせることが、当然いいことだというのは、おかしいと思う。子供であっても世間の人が言っていることの嘘を見抜き、真実をしっかりと見極めることも、すばらしいことだと思う。そういう子供がいれば、自分は、その子供が自分自身で考え、真実にたどり着いたことを大いにほめたいと思う。
 このドラマで、サンタクロースの件が一方的でない描かれ方をしているのは、とてもすばらしいことだと思った。


「リーガル・ハイ (第1シリーズ) (2)」に続く!



光太
公開 2014年9月15日

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