半沢直樹 (3)



これは(3)です。「半沢直樹 (1)」から読むのをおすすめします。



○ 半沢を見習うべきか

 このドラマの登場人物たちほどの悪意を持った人々ではないにしても、現実社会の職場などには、一定の割合で、権力を盾に、横暴に振る舞ったりする上司などがいる。いわゆるパワハラである。また、上司でなくても、人に嫌がらせをしたりする同僚や部下がいることもある。多かれ少なかれ、そういうことに悩んでいる人はたくさんいるだろう。そして、このドラマを見て、自分も半沢直樹のように、そんな人間たちをギャフンと言わせたい、と思う人も多いだろう。だが、残念ながら実際は、それは非常に難しいことが多い。このドラマのように、悪者たちの悪事が重大な不正行為なら、それに対して、半沢のように明確な証拠を突きつけて逆襲することもできるかもしれないが、多くの場合、そこまでの明白な不法行為は少ない。確かに、そうした者たちの嫌がらせや理不尽な要求の事実を、メールや録音などで、周囲の人々や上層部に訴えることは、できなくはないだろう。しかし、そういうことをしたときに、その嫌がらせをしていた人々がギャフンとなってハッピーエンドになる可能性は、とても残念だが、実際にはほとんどないようだ。事態を悪化させることも多い。さらに、小規模な会社などでは、嫌がらせ上司はほとんど会社のトップであり、訴える先もなかったりする。そして、こういう訴えが、逆恨みを招き、さらなる苦痛の日々が続くことも現実には多いのである。実際に、自分の知り合いには、それぞれの職場で理不尽な上司に嫌なことをされていた人が何人もいる。彼らは、どうにかしようとはしたものの、結局は、その上司ではなく、本人たちが職場をやめている場合が圧倒的に多い。このドラマのヒットを受けて、原作者が、「半沢のまねはしないほうがいいですよ。」とコメントしていたが、まあそうだろう。そういう嫌がらせをする人間など、自分は許しがたいと思うし(個人的には、パワハラをするような困った人間たちは、強制収容所に入れてもいいくらいだと思う。)、本当に悔しいことだが、残念ながら、それが現実なのだろう。こういう理不尽なことをされた場合に、それをきちんと判断して、そうした悪い上司などに適切に罰を与えてくれるような社会システムが作れるといいのだが...。


○ 「倍返し」の危険性

 一方、このドラマでは、半沢が、「倍返し」によって、悪者たちを徹底的に追い込んでいく。半沢は、不正行為の証拠をどうにかして手に入れ、徹底的に追い込む。そして、悪者上司たちは半沢の前にひれ伏すことになる。
 もちろん、そこが、ドラマを見ていて爽快なところである。だが、心配になることもある。あれだけ次々といろいろな人々を追い込んでいったときに、逆恨みされて、後々困ることにならないだろうか、という点である。もちろん半沢に追い込まれた人々は、非常にひどいことをやってきているので「倍返し」をされるのは自業自得だし、彼らがやってきたことを考えれば、あれくらいの屈辱は味わって当然である。いや、まだ足りないくらいである。だが、半沢に相当屈辱的な態度をとられ、惨めな思いをし、彼らは半沢に並々ならぬ憎しみを抱くだろう。
 そして、このドラマに登場する、そうした悪い奴らは、人を傷つけ、踏みにじっても何とも思わないような、精神的にもおかしなところのある人たちである。倍返しをされた後、半沢を仕事でおとしめてやろうどころではなく、中には、殺意すら覚える者もいるかもしれない。逆恨みというのは、非常に恐ろしい。自分は、それは重大な事態を引き起こしかねないのでは、と危惧するのだ。ストーカー殺人なども実際にたくさん起こっている。なので、半沢の追いつめ方を見ていると、半沢や家族の身がだいじょうぶかと心配にもなる。
 でも、だからといって、この「倍返し」をやめてしまうと、ドラマの一番大事なコンセプトを否定することになってしまうので、半沢には、警察に厳重な身辺警護を頼んでもらって、これまで通り徹底的にやってほしいと思うが...。


○ 最後に

 いずれにしても、このドラマが、悪い奴らは結局はひどくやられるのだという極めて爽快なドラマであることは間違いない。
 ついでに、個人的な感想を付け加えれば、服部隆之による音楽もいいし、上戸彩の妻役もとても魅力的に描かれている。それでいて、ドラマの中に、くだらない恋愛などを持ち込まないところも非常に好感が持てる。
 これだけスカッとするドラマなので、視聴率が次第に30%を越え、最終回は40%にまで達したのもうなずける。一般的に、ドラマは、12話くらいまであるものも多いが、半沢直樹が第10話までしかなかったのは本当に惜しい。もっともっと見たかったのに...。(逆に、時々、ドラマの時間枠を拡大してくれたのはよかった。テレビ局的には後の番組の放送時間が不規則になってたいへんかもしれないが...。)

 さて、半沢直樹は、ラストだけは爽快ではなかったので、肩すかしをくらった人も多いだろう。ラストは大いにスカッとするだろうと期待していた自分も、微妙な気持ちにはなった。だが、このラストは、続編があることを保証したようなものだろう。
 それは、この上なくうれしいことである。

 早く、続編が見たくてしょうがない。
 そして、第三弾、第四弾、第五弾、と続いてほしい。


(完)

光太
公開 2013年10月29日

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