特定秘密保護法 (2)



これは(2)です。特定秘密保護法 (1)から読むのをおすすめします。



○ 気に入らない人々を逮捕する可能性

 そして、もう一つの重大な点は、一般市民や記者たちが、秘密に関わることを知ろうとして、秘密を持っている政府や公務員に対して、取材や要請を行ったことにより、逮捕される可能性である。こちらは、本当に恐ろしい。
 通常のねばり強い取材活動に対して、取材対象の公務員などを不当な方法でそそのかした、強要した、と言い張れば、逮捕できてしまう可能性がある。
 そして、この法律が拡大解釈されれば、一般市民すら、逮捕される可能性がある。例えば、原発の情報を公開するよう、デモなどを通じて、強く主張したような場合、テロに関する秘密情報を漏洩させようとした罪で逮捕される可能性である。この場合も、デモの対象となった、原発情報を管理している公的機関や、原発を持つ電力会社などの担当者に、情報の漏えいを不当に強要された、などと言ってもらえば、デモの参加者の逮捕は不可能ではなくなるだろう。

 もちろん、今すぐに、こうした恐ろしいことが起こるわけではないだろう。
 安部政権などは国家主義的色彩が強いとはいえ、もちろん、そこまでするとは思わないし、そんなことをしたときの批判の大きさを考えれば、こうしたことを今すぐに実行する可能性は高くはないだろう。
 しかし、将来、強権的、独裁的な性格の強い政府が生まれたとき、この法律があれば、気に入らないジャーナリスト・市民などを次々に逮捕できたりしてしまう可能性が一番恐ろしいのである。

 戦前、戦中、治安維持法という法律があり、戦争反対をささやいただけで、人々は連行され、拷問を受けた。特高警察が、常に人々を監視し、言いたいことも言えない恐ろしい社会だった。
 治安を維持するというのは、一見、まことにけっこうなことに思える。だが、治安維持のためという名目で、戦争に反対するような意見を言っただけで人々が拷問を受けたという歴史を我々は現実に持っているのである。

 それは過去の話だと思う人もいるかもしれない。

 だが、実際に、近年も、歴代政府は、人々の言論活動を脅かすようなことをしてきている。
 1985-1986年には、警察が、日本共産党の国際部長の緒方氏の自宅を盗聴していたことが明らかになった。こうした盗聴はもちろん違法である。
 2004年2月には、自衛隊の立川宿舎のポストに、イラク派兵反対のビラを投函した人が、住居侵入の罪で逮捕された。これが住居侵入で逮捕されるというなら、ピザやヘアサロンや引っ越しなどの商業ビラを投函する人たちも逮捕されなくてはならないはずだが...。
 2005年9月年には、政党機関紙の号外を休日に配った社会保険庁の職員が逮捕された。
 1999年の国旗・国歌法案に関する答弁では、国旗・国家を強制はしないと言っていたが、東京都などを始め、多くの都道府県で、君が代を歌うことが強制され、君が代の斉唱時に起立しなかった教員たちが次々に処罰を受けた。大阪府では、教員の口の動きまでチェックさせている。

 要するに、国は、政府を批判するような人たちのことをうっとうしく思っており、そういう人たちの言論が制限されるようなことをする可能性が大いにあるということである。

 だが、政府を批判するような人たちというのは、我々の社会にとって極めて大事な人たちである。政府の権力というのはものすごく大きい。だから、やろうと思えばほとんど何でもできてしまう。そして、それ故に、利益誘導や癒着が非常に起こりやすく、わいろなどに対する非常に大きな誘惑が常に存在する。政府を批判するような人たちがいなければ、政府は即座に利益誘導、自己保身、癒着、国民の統制などに走るだろう。
 それを抑えるのは、政府を批判してくれる人たちの存在である。我々は、そういう人たちを本当に大切にしていかなくてはいけない。そういう人々を排除したり、そうした批判ができる状態を保証してくれる言論の自由を統制したりすることは、国をとんでもない方向に導くだろう。その行く先は、過去の日本であり、また、現在でも存在している北朝鮮である。言論の自由が大いに制限され、政府を批判する人がいないと、ああいう国になるのだ。

 石破幹事長は、2013年11月、デモで大声を上げるのとテロは本質的に同様だとブログに書いて批判を受けた。
 しかし、さすがに、石破氏自身が、この法律でデモの参加者を取り締まるとはないだろう。
 だが、将来、強権的・独裁的な政府が生まれたとき、強引な理屈で、デモをテロを誘発する活動と言い張り、この法律で、デモの参加者たちを取り締まる事態が起こらないとも限らない。

 安倍政権は、そういうことがないかのように言っているが、将来のすべての政権が、この法律を使って、恐ろしい言論弾圧国家を作らないと保証できるのだろうか?

 そうなったときには、もう取り返しがつかないのである。

 外国との関係でどうしても必要なら、外交機密だけに特化し、20年で完全に公開され、第三者機関が秘密の中身もチェックでき、裁判では裁判官はその中身を知ることができるような、乱用が不可能な法律を作ればよいのである。

 いまからでも遅くはない。
 こんな恐ろしい法律は廃止しよう。

(完)

光太
公開 2014年3月21日

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