少子化 (1)


 少子化が社会的な問題になっている。

 そして少子化対策の必要性が言われている。

 だが、事態は、多くの人が知っているより、はるかに深刻である。

 これを読んで、一人一人が事態の深刻さをよく知ってほしいと思う。
 そして、できるだけ多くの人とこれを共有し、真剣に考えてほしいと思う。

○ 恐ろしい少子化

 まず、手短に、多くの人が知っているだろう少子化の恐ろしさの確認からである。

 一人の女性が一生に産む子供の数の平均を出生率と呼ぶが、近年、この出生率がどんどん低下してきており、2005年には、1.26になった。男性は子どもを産めないから、この値が2.1ないと、人口は維持できないとされる。このため、子供の数は減っており、今の30代後半の人口に比べると、今の0歳の赤ちゃんたちの人口はわずかに半分しかいない。 このため、人口は2005年から既に減少してきており、2004年の1億2800万人をピークに、2050年には、9000万人程度にまで減少することが予測されている。
 だが、もし、日本の人口が、年齢構成をそのままに全体として減るなら、それほど問題はないかもしれない。問題は、高齢者の割合がどんどん高まっていくことである。既に、今の日本の人口の23.1パーセントが、65歳以上の高齢者である(2010年国勢調査集計結果より)。この比率は、世界一である。1960年には、高齢者の割合はわずかに、5.7%、1980年でもたったの9.1%だったから、この割合が既にいかに高いのか理解できるだろう。しかも、今後、世界でも圧倒的に速いスピードで高齢者が増えていく。国立社会保障・人口問題研究所の人口予測によれば、2050年には、なんと40パーセントが老人になる。
 国の財政のかなりの割合を社会保障費が占めているが、社会保障費はほとんど高齢者世代に対して支出されている。働いている世代は社会保障費をほとんど使っていない。そして、税金を払っているのは、ほとんどが働いている世代である。つまり、将来は、わずかな勤労世代が、膨大な高齢者を養う時代がやってくるのである。
 ここに、深刻な財政問題が絡む。今の日本の借金は、2010年度末で約919兆円である。2011年度の国の税金収入は、41兆円であり、もし、これから収入が毎年これと同じ額だとすれば、国が、これから、一切お金を使わず、全ての収入を借金の返済に回しても、この借金を全部返済するには、22年ほどかかる。一切お金を使わないというのは、自衛隊や警察官、教員などが一人もいなくなるのはもちろんのこと、信号機は止まり、道路や橋などの維持管理なども一切できず、ただ22年間、税金のみが集められる...。これだけの借金があるのだから、当然、一刻も早くこの借金を返さなくてはならない。しかし、今は、その借金を返すどころか、2011年には、税金収入が41兆円しかないのに、92兆円の支出をしており、税金収入より多い金額の借金を重ねながら、国の運営をしているのである。恐ろしいことこの上ない。

   それでも、これから人口が増えていくなら、この借金を返していける展望はあるかもしれないが、全くそうではない。今後は老人が増えるため、社会保障費は爆発的に増える一方で、税金を納められる働く世代はどんどん減少していく。将来の働く世代は、この莫大な借金を返済しつつ、膨大な人数の高齢者を支えていかなければならない。これでは、消費税を50%くらいにしても足りなくなるのではないか。

 だが、恐らく、この程度の将来予想ではまだ甘い。例えば、現在もそうだが、結婚しない人が増えているため、特に中高年女性が経済的に自立できなくなり、生活保護世帯がどんどん増加する、といったことも起こるだろう。それに伴い、生活保護の支給費がどんどん増えていく。そして、それらにより、国の財政はますます逼迫するだろう。

 先行きはさらに暗い。日本はこれまで、工業製品の輸出で成り立ってきたが、日本製品の世界におけるシェアはどんどん落ちてきている。韓国をはじめとするアジア諸国などの車や電化製品は、今後、さらにどんどん世界に広まってゆくだろう。そして、日本製品は、今のまま手を打たなければ、競争力をさらに失ってどんどん売れなくなっていく。さらに、国内の少子化により、日本の人口が減り、国内消費も減って、商品を国内に売ることもできなくなり、日本経済はどんどん悪化していく...。

 これが、恐ろしい少子化の問題の概要である。


○ 子どもを生みやすくすれば少子化は解決できるか?

 こういうわけだから、もちろん、少子化に対して何か対策を講じなければならない、と誰でも考えるわけである。上で述べたように、国立社会保障・人口問題研究所などの人口統計の予測では、40年後に、老人の割合が40%になるとされているが、対策を講じて、それを回避しようと思うわけである。だが、それはほとんど不可能であろう、というのがここで論じることの趣旨である。
 恐ろしいことなのだが、以下を読んで真剣に考えてもらいたいと思う。

 さて、これから論じることの重要なところは、政策研究大学院大学の松谷明彦教授の講演で聴いたものである。

 まず、松谷教授は、講演の中で、「今の政府は、少子化問題に取り組んでいるかのようなことを言っているが、本当は少子化は解決できない問題であるのに、少子化は対策をすればあたかも解決できるかのように言っている。それは誤りだ。」という趣旨のことを述べた。

 そして、「例えば、待機児童を減らすことや、子ども手当を少子化対策だと言っているが、そんなことをしても、少子化は解決しない。」と言っていた。

 これは自分も知っていた。今、少子化がどんどん進んでいる理由は、結婚しているカップルが、子供を産まないようになったわけでも、子供を3人持とうとしていたカップルが、産む子供の数を2人や1人にしているからではない。
 ここは重要なポイントだが、昔も今も、結婚しているカップルの平均的な子供の数は2人である。正確に言えば、過去30年程度、結婚しているカップルの子どもの人数は、2.2人であったが、最近でも、2.08人となっており、わずかに落ちてはいるが、ほとんど変わっていないと言える。結婚してしているカップルは、今も2人の子供を産んでいるわけである。
 少子化問題の本質は、結婚しているカップルが子供を産むことを躊躇していることではなく、結婚する人の割合が減っていることである。つまり、少子化を防ぐには、既に結婚しているカップルに子供を産みやすい環境を整えることではなく、結婚するカップルの数を増加させる必要があるのである。(もちろん、個人的には、子供を育てやすい環境にすべきだと思うが、それは少子化とは別の問題である。)だから、少子化対策を真剣に考えるなら、子供を育てやすい環境を作るということに力点を置くのではなく、人々にどんどん結婚してもらうような対策をすべきである、というわけである。

 松谷教授は、結婚する人の割合が減っていることには、主に2つの理由があるとしていた。一つは、結婚に対する考え方、ライフスタイルの変化であり、もう一つは、若い男性の収入が少なくなっていることであるとした。そして、ライフスタイルの方には国家が関与できないから、若い男性の収入を増やすようにすることが、少子化対策として最も有効であると述べた。

 確かに、これは理にかなっている。現在、20代後半から30代の独身男性の収入とその結婚している割合には、かなり高い相関がある。年収の高い男性の多くは結婚しており、年収の低い男性の多くはほとんど結婚できていない。これは、統計データにはっきりと表れている。こうした理由で結婚していない男性たちは、結婚したいと思っているのに、収入が低いせいで相手になるはずの女性たちが不安を感じるために結婚できないでいる。だから、この人たちに結婚してもらうためには、安定的な収入を保証してあげればよいわけである。失業率を改善するのも大変な中で、若者に安定的な収入を保証してあげるということは、政策として決して簡単ではないだろうが、まあ、やりようがないわけではないと思う。したがって、この方針に則って、対策を講じていく必要があるだろう。

少子化 (2)に続く!



光太
公開 2011年7月30日

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