アナと雪の女王 (1)


「アナと雪の女王」   ディズニー映画 2014年

評価: 71点


○ はじめに

 自分はディズニー映画が特に好きというわけでもないため、この映画にも、特に興味があったわけではなかった。だが、歌を合唱するイベントも開かれているということで、かなり話題になっていたのは知っていた。”ありのままに”生きるというメッセージが多くの人の共感を得ているというような解説も読んだことがあった。

 飛行機に乗ったときにたまたまやっていて、他に見るものもなかったため、見てみた。

 まず、見た感想としては、別に悪い映画ではないが、どこがそれほどいいんだろう?といったところであった。

 ついでに言えば、ミュージカルもインド映画もそうだが、この映画でも、登場人物が、突然、歌い出すところも、ちょっと慣れなかった。ディズニー映画ではごく普通のことなのではあろうが...。


○ ありのままでいいのか?

 映画を見た後、知り合いの女の子(19)に感想を聞いてみた。その子の感想は、以下のようであった。
 最初、「アナと雪の女王」を見に行ったとき、すごく気に入った。ありのままでいいんだー、と思った。で、よかったのでもう一回見に行った。そうしたら、アナとエルサは、確かに、地位もあるし、きれいだし、ありのままの姿を見せればいいかもしれない。でも、やっぱり、私は化粧もしないといけないし、いろいろ努力もしないといけないし、ありのままでとは言ってられないよなあ...、と複雑な気持ちになった、ということだった。


○ そもそも、ありのままでいいというメッセージなのか?

 さて、この映画は、そもそも、ありのままでいいと訴えているのだろうか?
 確かに、一番盛り上がるメインの歌は、「ありのーままのー姿見せーるのよー。」「ありのーままのー自分になーるのー。」「私はー自由よー。」と歌っている。
 しかし、この歌は、映画の最後に流れるのではない。物語の途中、エルサが人のいない山奥で、孤独に氷の城を打ち立てる時に高らかに歌うのである。この時のエルサは、決していい状態にはない。アナに対しても含めて、周りの人たちに対して非常に攻撃的になっている。下手をすれば、誰かを殺していたかもしれないくらい危険なことをしていた。この歌を歌うのはこの時である。やりたい放題にやって孤立しているときに歌うのである。
 確かに、ずっと能力を隠して生きていたのは、精神衛生上もよくない。しかし、人に対して攻撃的になって、やりたい放題にやっている状態も、誰が考えたっていい状態ではないだろう。この歌は、そこで歌われるのだ。

 最後、エルサは、元の城に戻ってきて、いい女王として振る舞うようになる。魔法の力も使って、人々のために、スケートリンクを作ってあげたりする。この時点では、エルサは、魔法の力も隠していないし、非常にいい女王になっていると言える。
 だが、ここで、”ありのままで”の歌は歌われない。

 もう一度、歌が歌われたシーンを振り返ってみる。歌詞の最後は、「これでいいのー。少しも寒くないわー。」である。そして、誰をも寄せつけないぞ、私は引きこもるのよと言わんばかりに、扉がバタンと閉まる。
 つまり、これは、引きこもるときの曲だと言えるだろう。

 要するに、言いたいことは、「ありのままで」という曲は、みんなそうなろうというのではなく、ある人物の成長過程において、一時期、極端に振れていたときの曲と言えるということである。もっとわかりやすく言えば、そうなってはいけないとまで言ってもいいかもしれない。

 自分を隠して、いろいろ我慢して抑圧しているのは、よくない。でも、逆に、その反動から全てを解き放って、「ありのまま」にするのでは、孤立を生むだけである。自分の出したい部分はある程度出しながらも、人々とある程度の協調性を保ちながら生きていくのが、結局はみんなからも愛されることになり幸せである...、といったようにとらえられる。

 だから、この映画を見て、「ありのまま」に生きればいいんだ!と感動し、勇気づけられるのは、映画を誤解してとらえているのではないかと思う。
 勝手にそう感じて、そのように解釈するのは個人の自由だが、この映画のメッセージは、そうではないだろう。
 そんな解釈をするのは、お年玉のエピソードを描いたサザエさんのアニメを見て、第二次世界大戦中のドイツのユダヤ人迫害の悲惨さを理解した、というのと同じくらい突飛な解釈ではないか...。

 ここまで書いてきて、疑問が沸いてきた。
 自分は、日本語の歌詞しか見ていなかったが、英語の歌詞はどうなっているのだろうか?

 というわけで、オリジナルの英語の Let it go の歌詞を確認してみた。

 なんと!

 日本語版と全然違うではないか?

 英語版は明らかに、引きこもりの曲である。
 ありのままに生きようというポジティブで肯定的で積極的な歌詞では全くない。
 ここでは詳しくは書かないが、興味のある人は、英語版と日本語版を比べてみるとよい。

 この映画に対して自分の持っていた違和感は、主に、日本語の歌詞の意味が、本来の英語版の歌詞と全く違って、場違いなものになってしまっていることから生まれていた、というわけである。
 そりゃあそうである。
 引きこもる場面で、引きこもりの歌が元々歌われていたのに、そこに、ありのままに生きることはすばらしい、という全く違う歌が歌われれば、見ている人は混乱に陥って当然である...。

 人目をあまり気にせずに、自己表現をしようというメッセージは、それ自体は悪くなく、日本語の歌詞それ自体も悪くはないが、この場面でこの歌詞が歌われるのは、全く場違いであろう。

アナと雪の女王 (2)に続く!



光太
公開 2014年9月23日

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