思考の整理学


「思考の整理学」   外山 滋比古 (著) (ちくま文庫) 1986年

評価: 17点


 この本は、かなり話題になり、100万部以上が売れたという。そして、本の帯には、「東大・京大で一番読まれた本」などと書いてあった。

 それでかなり期待して買ってみたのだが、実際読んでみると、非常につまらないを通り越して、怒りすら感じた。

 本書には、そもそも、別に新しいことが書いてあるわけでもない。そのため、本書を読んで特に気づかされるようなこともなく、また、おもしろいデータなどが紹介されているわけでもない。
 本書で述べられていることは、既に言い古された、日常的にもよく言われている、全く当たり前のことに思える。受動的に知識を得るより主体的に考えることが大切だということ、考えつめないで気分転換したり時間をおいたりすることが必要だということ、リラックスしているときに何かアイデアが浮かぶことがあること、多方面の情報が発想には重要だということ、...。だが、これらは極めて当然のことで、別に今更、一冊本を読んでおもむろに学ぶようなことでもない。
 だが、こうした全く当たり前のことが、本書では、さも新しい着想であるかのように、わざわざ冗長に述べられている。

 また、メモのとり方などについても述べられているが、紹介されているのは、非常に面倒で手間がかかり、時間も浪費するような方法であった。相当几帳面な性格かつ時間のある人でない限り、こんなことはやっていられないと思うだろう。本書が書かれた当時は、パソコンなどもなかっただろうから、情報を整理したいと思ったら、こういう方法をとらざるを得なかったという事情もあったかもしれない。しかし、パソコンで簡単に情報を整理できる現在において、我々は既にはるかに効率的に情報を整理しており、我々が本書を読んで得るものは非常に少ない。

 また、「朝飯前」の項に代表されるように、強引な理屈が多すぎる。我田引水にもほどがあると憤りを感じる個所も多い。

 本書では、裏付けとなるデータを示して話を展開していないことも大きな問題であるのだが、仮に主観的文章であっても、優れた洞察がこめられていれば読むに値すると思う。
 1993年に出版された「超整理法」という本があったが、あの本は、考え方が非常に合理的に書かれており、筆者の洞察力と思考の深さに感嘆したものである。しかし、この本からは、「バカの壁」や「国家の品格」などと同様、著者の考察の浅さと一方的な決めつけだけが印象に残った。

 こんな本を、現代の東大生や京大生が、ありがたがって一番読んでいたのだとしたら、理解に苦しむ。彼らは、本書に書いてあるような内容を、そもそも知らなかったのだろうか?これを読んで、非常に価値の高い情報だと感じたのだろうか?
 彼らは、将来日本の中枢を担う割合が高いわけだが、その彼らがそんなことでは、日本の将来に危機感すら覚えた。

(完)

光太
公開 2011年4月30日

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