結婚できない男


「結婚できない男」   (フジテレビ) 2006年

評価: 89点


○ 会話がおもしろい!

 このドラマの、主人公桑野(阿部寛)の会話は、本当におもしろい。会話がこれだけおもしろいドラマはあまりない。

 腹痛で苦しんでいるときに、隣人から「気分が悪いんですか?」と声をかけられて、苦しみもだえながら「気分がいいように見えますか?」と答えるところなど最高だ。気の知れた知人ならまだしも、初対面の隣人にそう答えるところに、そこはかとないおもしろさがある。

 女医の早坂(夏川結衣)に対し、「前から疑問に思っていたが、医者は病人が多い方が儲かるのに、どうして、患者の健康を願うのか?」と尋ねるところもおもしろい。同じようなことは多くの人が思うかもしれないが、普通、それをわざわざ疑問として提起したりはしない。電力会社が節電を呼びかけるのにも、同じような疑問がありうるかもしれない(東日本大震災後の原発停止の後は、電力会社が節電を呼びかけるのはわかりやすいが...。)。

 花火の写真を見ながら、赤はストロンチウム、黄色はナトリウム、といった炎色反応の解説を始めるところなどは、理系の人なら、ついついしたくなってしまう解説で、微笑ましい。
 そして、はとバスツアーで、桑野と早坂が隣同士の席になった理由を、一人で乗った者同士が隣どうしになるのは必然だと解説するのも、やはり理系の人なら、そうだそうだとうれしくなるだろう。

 このドラマの阿部寛を見ていると、TRICKの上田教授を思い出す。TRICKの仲間由紀恵とのやりとりも非常に好きなのだが、このドラマでのやりとりもかなりのおもしろさである。
 阿部寛本人も、こういうキャラを演じるのが好きなのだろうか?

 桑野は、確かに性格には大いに問題があると思うが、こういう会話のできる友人は、是非ともほしいと思う。


○ 何万分の一の偶然が次々と...

 ここで、このドラマの不自然なところにも触れておこう。

 このドラマの桑野は、他人に対してフレンドリーではなく、自分から他人と人間関係を作るように行動することはなく、一人でいることを好むような設定である。さらに、ドラマをおもしろくするために、他人に対して不愉快なことを言いまくるキャラクターになっている。したがって、現実にこのような人間がいたとすると、知らない女性と親しくなる可能性などほとんどない。
 ここで、桑野を早坂医師や隣の部屋のみちると親しくならせるためには、数多くの不自然な、偶然の遭遇を持ち出さないといけなくなる。都合よく病気になったり、都合よく忘れ物をして届けなければならなくなったり、都合よく町中で見かけたり、都合よくビデオレンタル店で会ったり、都合よくマンションの入り口で相当な頻度で遭遇したり...。あれだけマンションの入り口や家のドアの前で会うとすると、1日に100回くらいは出入りしないとだめだろう。マンションに住んでいる人なら、偶然、隣の人と顔を合わせる確率がどれくらい低いかよく知っていると思う。

 ドラマに多すぎる偶然はつきものだが、このドラマではその頻度が尋常ではない。

 まあ、コメディ系ドラマなので、いいのだが...。


○ 桑野に共感

 さて、結婚できない男、ということだが、桑野の言動にも現れているが、独身というのは実際非常に楽しく、メリットが多いと思う。

 何を食べても自由、いつ帰ってきても、いつまで寝ていても自由、家で音楽をかけても誰からもうるさいと言われることもない、掃除をどんなに念入りにしようと、掃除を全くしまいと何ら問題ない...。

 そして、桑野の主張するいくつかのことは、本当に的を得ていると思う。

 「人が金持ちかどうかは、収入の大小によるのではなく、自由に使えるお金、つまり、可処分所得の大小によるのだ。」といったあたりは、本当にその通りであり、名言だろう。独身の自分は、職場の食堂で、いつも、550円のA定食を食べているが、結婚している同僚は、いつも、230円のうどんを食べている。独身の自分は、飲み会に行くにも、お金のことは気にせず、月に何度でも自由に行けるが、結婚しているその同僚は、月々に使えるお金が決まっているので、飲み会に使えるお金も限られている。少しでも飲み会の回数を増やせるようにと、昼食を最大限切り詰めるなど、涙ぐましい努力をしている。

 さて、蛇足になるが、この飲み会の件については、お金の問題だけではなく、別の問題もある。飲み会で遅く帰ると、奥さんに怒られたり、奥さんが不機嫌になったりするというのである。そうなると、仮にお金の問題がなくても、頻繁に飲み会にも行けないし、2次会、3次会に行くのは、帰りが遅くなるから、奥さんを不機嫌にする可能性がさらに高く、大きなリスクを覚悟しなくてはならない。飲み会が盛り上がって、みんなで、もうちょっと話したいと思っているときにも、後ろ髪引かれる思いで泣く泣く帰らなければならないのである。これはたいへんな苦痛と損失であろう。

 話を戻そう。

 桑野は一応結婚のメリットにも触れている。家で使う人生ゲームをなぜ職場に配達してもらうのかと聞かれて、「家に配達してもらっても、仕事をしていて留守なのだから受け取れない。不在票が入っているのも気分が悪い。それを受け取るためには、その間わざわざ家にいて待っていなくてはいけない。これは独身生活の数少ないデメリットの一つと言える。」と答えていた。マンションによっては、不在でも受け取れる配達BOXを備えつけているところもあるようであるが、自分は、いつも、これには困っているので、全くその通りだとうれしくなった。確かに、これは、独身の"数少ない"デメリットの一つであろう。

 自分は独身生活が大いに好きなので、桑野の生活や言動に非常に共感を持つのだが、まあ、日本の少子化にとっては、自分のような人間が諸悪の根元であることは、疑いの余地はないのだが...。


○ 期待

 さて、このドラマは、非常におもしろかったが、少し残念な点を挙げると、前半の桑野の様々なおもしろい会話は、後半、失速気味であったと感じられた点である。
 人を嫌な気分にしたり傷つけるような言動はなくてもいいが、論理的でおもしろい会話のペースは崩さないでほしかったと思う。スタートレックの、ミスター・スポックと、ドクター・マッコイのやりとりを彷彿とさせるような桑野の会話は、最後まで引っ張ってほしかった。

 そうした会話のネタがつきたわけではないと思うし、まだまだそういった会話は提供できるのではないかと思う。もし、そうであれば、是非、続編を作ってほしい。

 今後はもはや結婚をテーマにする必要はないだろうし、なんなら結婚してしまっていてもよいから、桑野を主人公としていろいろ語らせる場面の多いような続編ドラマを大いに期待したいところである。

(完)

光太
公開 2012年6月10日

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