告発〜国選弁護人


「告発〜国選弁護人」   (テレビ朝日) 2011年

評価: 84点


 このドラマは、深みのあるシリアスなドラマであり、かなり見応えのある作品である。特に、第1話、2話、及び、第7話、8話の、一連の政治的な背景に基づく事件など、非常にエキサイティングで優れた背景設定だと思う。

 主人公の佐原弁護士は、過去に、被告人を十分に信頼しなかったため、逆恨みされて妻を殺されたという経験を持つ。その過去を悔いる気持ちから、現在は、依頼人のことを最大限思いやり、小さな証拠も見逃さず、被告人に対してできる限りの弁護をしようと努力する、採算度外視の国選弁護人をしているという設定である。ありがちな設定かもしれないが、非常にいい設定だと思う。

 特に圧巻なのは、第7話、8話の展開である。第1話、2話も含め、この政治がらみの事件のストーリーは、なかなか高度で、理解するのに難しさを感じる人もいるかもしれない。だが、これらは非常に質の高いストーリーであり、1度見て理解できなかった人は、何度も見てみる価値が十分にあるドラマである。
 ラストも非常によかった。ラストの法廷でのやりとりは、まさに身震いさせるほど見応えがある。そして、巨悪(人殺しまで厭わない、超有力政治家)が最終的に敗北していくラストの展開は、見ていて爽快である。

 ところで、このドラマの田村正和の演技は、「古畑任三郎」をなんとなく思い出させる。このドラマを見て、田村正和は、こうした役にはまさに適役だと改めて思った。

 また、他の役者たちの人物設定や演技も、基本的にはかなりいいと思った。(ただし、佐原弁護士事務所で働いている鶴岡弁護士の役柄だけは、あまりにも品がなく、わざとらしい感じがした。)

 以上、述べてきたように、設定はほとんど申し分なく、最終盤にかけての展開は非常にいいのだが、たいへん残念なことに、ストーリー展開にかなり強引なところがいくつかあると感じた。
 ここでは、敢えて、それについて書いておきたい。

 例えば、第4・第5話は、「火の記憶」の謎を解いていくというストーリである。これは、被告人・清水熱子の子供・秀子が川に落ちて亡くなった事件で、熱子が自分の子供である秀子を川に落としたのか、秀子が自分で、または事故などで川に落ちたのかが、一つのポイントとして裁判で争われている。取り調べの中で、熱子は、秀子が川に落ちる瞬間に火を見た、と言っており、秀子を川に落としたとも落としていないとも主張していない。
 そして、この、「火を見た」という不可解な記憶の謎は最終的に解ける。それは、秀子が、川に落ちる寸前に柵の上に上がり、「お母さん嫌い!」と言ったときに、熱子自身が嫌いであった熱子の母親を思い出し、子供の頃にその母親たちと一緒に見た、火が燃えている風景の記憶がよみがえり、はっとしている間に、子供が川に落ちてしまったことが明らかになった(つまり、被告人である熱子が落としたのではなかったことを思い出した)というものである。
 だが、この裁判において、被告人のこの証言はそんなに有用なものなのだろうか。この事件において、被告人のこうした証言は、裁判でどういう意味を持つのだろうか。もちろん、被告人が子供を落としたと証言すれば、それは自白として採用され、被告人による殺害は事実として認定されることだろう。しかし、被告人が子供を落としたことを否定すれば、子供を殺していないことになるのだろうか?そして、もし仮に、被告人が、火を見たと嘘のストーリーをでっち上げて主張したとしたら、刑は減じられるのだろうか?子供が川に落ちる瞬間、その現場には、その子供と被告人しかいなかったのだから、被告人のそうした証言を裏付けることは不可能である。その中で、火の記憶の謎を解くことにどの程度の意味があるのか、自分にはよくわからなかった。自分には説得力が感じられなかったのである。そもそも、火の風景を思い出すということ自体も、火の風景を思い出している間に、子供が川に落ちてしまったというのも、なんとなく不自然なストーリーのような気もするのだが...。

 また、第2話では、岸田麗子が、民政党の藤尾代議士の不正献金疑惑を追求していた山縣検事を崖からつき落として殺す。この時、岸田麗子は、山縣検事に、崖の上に立った、麗子自身の写真を撮らせ、撮り終わったところで麗子が写真を見に近づいてきて、山縣検事を崖から下につき落とす。崖の下は、海の手前に岩場があり、山縣検事はそこに体を打ちつけて死ぬのである。
そして、この携帯は崖の下で、山縣検事の死体とともに発見される。この発見された携帯には、麗子の写真が残っており、事件の解明において、この写真が一つのポイントとなる。
 しかし、そもそも、計画的に殺人を行っている犯人が、被害者をつき落とす前に、携帯のカメラで自分の写真を撮らせるだろうか?携帯は、いずれ見つかる可能性もあるのだから、そんなことをすれば、すぐに犯人がばれてしまうではないか。

 また、そもそも、この一連の事件においては、夫・赤堀勇造を殺したことで、その妻・赤堀波子が被告人として裁判を受けており、裁判などにおいては、夫を殺したことを最初から認めている。だが、終盤で、崖からつき落とされた山縣検事に、携帯電話で「夫を殺せ」と言われたから、赤堀波子は夫の勇造を殺したということが明らかになるという展開である。しかし、それが裁判においてどれくらい重要なことなのだろうか。例えば、誰かから、お金をもらって殺人を依頼されたり、繰り返し、殺人の相談があったとか、殺人を依頼されて何度も断ったのに、脅されたり、説得されてそうせざるをえなかったなどというなら、被告人の罪は軽くなるのかもしれない。だが、この被告人は、山縣検事から、ただ一度だけ、電話口でちょっと言われただけである。これが、いかにも決定的で重要なことを解明したかのように扱われている。しかし、こういう経緯で殺した場合、電話で、一言、夫を殺せと言われたことがそんなに重要なことなのだろうか。それも自分にはわからなかった。

 また、この事件では、佐原弁護士の親友の岡部弁護士が、元内閣総理大臣である自由党の北条代議士とも裏で結びついて、民政党の藤尾代議士の不正献金疑惑を追及している背景がある。しかし、第2話の途中で、北条代議士と藤尾代議士は対立をやめる。これは、ストーリー展開上、重要なターニングポントである。にもかかわらず、2人の政治家が対立をやめた理由も全く説明されず、視聴者には、何が起きたかわからないのである。

 さて、非常にいいと思った、最終版の展開であるが、実はこのラストにも、ちょっと納得できない展開がある。ラストにおいて、岡部弁護士は、自ら、藤尾代議士に近づき、藤尾代議士のために事件を隠蔽するかのようなことを言って、藤尾代議士からわいろをもらい、そのわいろを岡部弁護士の銀行口座に振り込ませ、自分自身の通帳の写しを、佐原弁護士に送る。そして、裁判で、佐原弁護士から、その通帳が証拠として提出され、藤尾代議士は検察に逮捕されることになる。つまり、ここで、岡部弁護士は、自らが汚名をかぶることを前提に、藤尾代議士を逮捕させるのである。これは、自己犠牲を伴うドラマチックな展開である。しかし、これは明らかにおとり捜査のようなものである。岡部弁護士と佐原弁護士はある程度仲がいいわけだから、岡部弁護士が佐原弁護士に通帳の写しを渡したことが後で明らかになる可能性も高く、そうなったら、たいへんなことになるのではないだろうか?

 また、第6話では、通り魔殺人のような者が起き、殺人を犯した被告人・井上隆男は、見ず知らずのサラリーマン・宮崎康文を突然執拗に刺し殺したということで、死刑判決を受けそうになっている。だが、佐原弁護士の調査の結果、この事件の犯人・井上は、過去に恋人をレイプされ、その恋人を自殺によって失っており、そのレイプ犯が実は、この事件の被害者・宮崎であり、そのレイプ犯を復讐として殺した、というのが、通り魔殺人に見えた殺人の真相であることが明らかとなる(宮崎は、レイプ事件をもみ消してもらっており、当時、宮崎は立件されなかった。)。だが、この被告人・井上は、殺人をして逮捕されてから、その事情をずっと黙っている。死刑になろうとしているのに、である。このとき、被告人がその事情を言わないでいたのは、一応、レイプ事件の別の被害者・宮崎由紀子(ある事情により、この被害者・由紀子はそのレイプ事件の犯人・宮崎康文の妻となっている)を守るためということになっているのだが、宮崎由紀子にほとんど迷惑をかけることなく、宮崎康文が行ったレイプを社会に公表することは十分にできたと思う。本当にそのレイプ事件の犯人・宮崎康文を憎んでいるなら、殺した後でその事実を社会に向けて暴露した方が、よっぽどよい復讐になると思う。そのままでは、社会は、この殺人事件の被害者・宮崎康文は、頭のおかしい通り魔・井上に殺されたかわいそうな一般市民ととらえることになってしまう。最初からしっかりと暴露する方が、明らかに復讐としてはふさわしいだろう。このストーリーには、納得できなかった。

 このドラマは、非常に質が高いにも関わらず、ストーリー構成について、このように、納得できないと感じる部分も多かった。このドラマは、かなりの力作であるだけに、たいへんもったいないと思う。

 このドラマは、松本清張の作品からテーマをとって、それを改変してストーリーを作っているという。確かに、松本清張の作品であることを彷彿とさせる設定と、雰囲気をこのドラマは醸し出している。だが、ストーリーは残念ながら、納得できないと感じるものも多かった。もったいないことこの上ない。松本清張の作品は、いつでも非常に精巧に作られており、このドラマの元となった作品も、きっとそうであると思う。それならば、変にその作品のストーリーを作り変えたりせず、オリジナルの作品に忠実にドラマを作れば、こういう残念なことも起きなかったのではないかと思われる。

 パート2に非常に期待している。
 そのときは、不自然な部分のない、より洗練されたストーリーとしてもらえれば、非常に質の高い、歴史に残るドラマになるかもしれないと思う。

(完)

光太
公開 2011年4月20日

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