無痛


「無痛」   (フジテレビ)    西島秀俊 (主演)     2015年

評価: 76点


 このドラマは、結構好きなのだが、ところどころに不自然なところがあって、集中を乱されることがある。

 もちろん、外見を見ただけで患者の病気が正確にわかるとか、殺人する前に、その人間が殺人を行うとわかる、などというのはおかしいのだが、それは、そういう設定なのだから、受け入れられる。

 だが、ストーリーのそういう基本的設定ではない部分に、ものすごく不自然なことがたくさんあるのだ。


○ おかしな警官・早瀬

 警官・早瀬は、かなりおかしい。
 最初の頃、医師の為頼に捜査への協力を依頼するとき、依頼する立場であるにも関わらず、ずっと高圧的・詰問的であった。
 仲がいいわけでもない人に対して、こんな対応がありうるだろうか。
 お願いするなら、低姿勢でお願いするのが当然だろう。
 失礼にもほどがある。こんな失礼な人間がいたら、協力するどころか、なるべく関わらないようにするだろう。

 そして、早瀬は、すぐに怒り出す。
 とてもじゃないが、警官とは思えない。
 もちろん、これは、早瀬が殺人を犯しかねない人物であるということを明確にするための、人物設定なのかもしれない。
 しかし、常日頃からこんなに短絡的な人物に描かなくても、犯罪者たちと向き合ったときだけ怒りがこみ上げてくるという人物設定でもよかったはずである。
 こんな短絡的な人物を見ていると、見ている方がいらいらしてくる。
 ここまで短気な人物だったら、日常生活が送れないレベルだろうし、周囲の人たちからは相当嫌われるだろう。


○ 容疑者の尾行

 第3話で、早瀬が、殺人の容疑者箱崎の尾行をする場面がある。
 早瀬は、かつて、この容疑者を捕まえたことがあり、顔を知られている。

 しかし、尾行しているのに、全然隠れるそぶりもなく、容疑者のちょっと後ろを堂々と歩いている。
 これでは、容疑者が振り返ったら、そこで終わりである。
 こんなバカな尾行の仕方があるのだろうか?

 それから、その尾行中に、上司がそれを止めにやってくる場面がある。容疑者は、まさに女性を襲おうかというタイミングである。そのとき、早瀬は、大声で、その上司と口論する。自分は、唖然とした。こんなバカな人間がいるのだろうか?容疑者からすぐ近くなんだし、容疑者に聞こえるんじゃないか...。
 そして、案の定、容疑者は、その声を聞いて振り返り、警官に尾行されていることを知って、逃走する。

 普通なら、上司が来た時点で、小声で、容疑者からは見えないところに誘導し、事態を説明するだろう。
 本当に、バカすぎて話にならない。
 こんな幼稚なストーリーでは、見る人から見放されて終わりである。


○ ストーカー

 第4話では、臨床心理士・高島をストーカーする人間が現れる。

 このときの高島の対応が全く意味不明である。
 ストーカーされている男から、起きていた殺人に関係あるかのようなメールを受け取っているのに、それを警察にも相談しないし、為頼にも言わない。これは、高島本人にとっても、かなり危険な状況である。そして、次は為頼を殺害するかのようなメールを受け取っているのに、そのことを為頼にも言わない。もし、これで、為頼の身に危険が生じたら、いったいどうするつもりなんだろうか。

 また、このストーカーは、病院内にもよく現れるが、なぜか高島に見つかることがないのである。
 隠れている時もあるが、大して隠れていないときもある。なのに、見つからないのである。
 高島は、極度の近視なのだろうか?
 こんな見えやすいところにいるのに、見つけられないとは、今世紀最大のミステリーとも言っていい。
 せっかくだから、ドラマ中で、その謎でも追ったらどうか? =P


○ 殺人の犯人

 このドラマの殺人の犯人は、結局、ストーカーの佐田ではなかった。
 しかし、途中では、ストーカーの佐田の足跡と同じものが現場に残っていたということであったし、佐田が好きなプリンが残されていた。
 途中では、明らかに、佐田が犯人であると見る者に思わせようとしている。
 しかし、結局、それらは偶然でしかなかった。
 確かに、実際の事件でも、そうした偶然はゼロではないだろう。しかし、複数の証拠が偶然一致しているというのはやりすぎである。
 そんなことが許されるなら、どんなミステリー作品でも、途中では、見る者に対し、犯人ではない人物を犯人だと意図的に推測させることができてしまう。
 それは、ミステリーとして、一線を越えており、やってはいけないことだと自分は思う。


○ 最後に

 このドラマは、変なところもたくさんあるが、展開はなかなかおもしろいし、次はどうなるのか、と視聴者の気を引く作りになっている。実際、自分は、次の回をすぐに見たくなった。

 それなのに、視聴率は非常に低かった。

 なぜだろうか?

 少なくとも、ここで論じているような不自然な点に視聴者ががまんできなくなったから、ではないだろう。

 こういうシリアスなドラマはあまり受けないのだろうか。

 視聴率が低いために、こういうドラマがなくなっていってしまうとすれば、非常に残念である。


 

(完)

光太
公開 2016年2月21日

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