もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら


「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」   岩崎 夏海 (著) (ダイヤモンド社) 2009年
アニメ: (NHK) 2011年

評価: 68点


 書籍の方は読んだことがなかったのだが、NHKでやっていたアニメ(ドラマではないが、ドラマ評の項に一緒に入れさせてもらった。)の方で見た。
 書籍の方もその後に立ち読みしてみたが、ほぼアニメと同じようなので、本を読んでも同じような感想になったのではないかと思う。

 この本は、非常に話題になっていたため、ある程度の期待を持ってアニメを見た。

 基本的な発想としてはかなりおもしろいと思う。マネージメント理論は、確かに日常のいろいろなことにもっともっと応用できるだろう。そして、その実践主体を高校野球の女子マネージャーに設定したところもいいと思うし、それが本書が売れることになった大きな理由だろうと思う。


 だが、自分の感想としては、マネージャーのみなみがドラッカーの「マネジメント」を読んで思いついたような対応や工夫は、普通に常識的によく考えれば考えつくこと(部員の満足を考える、個々の能力を発揮できるようにする、など)であり、「マネジメント」に関わる部分があまりなくて、「マネジメント」をそんなに生かしているような感じがしなかった。そして、ドラッカーの「マネジメント」の中の記述からヒントを得て、野球部の改善につなげるところにも、なんとなく無理やり感、こじつけ感があった。
 もちろん、この本自体が真面目な本ではないのでそれは別にいいのだが、こじつけならこじつけで、主人公がドラッカーの「マネジメント」を元にあまりにも真剣に考えているように描かないほうがよかったのでは?とも思った。何かの宗教の盲目的な信者が、宗教書の教えを実生活上で実践しているわけではないのだから、あんなに真面目な顔をして、「マネジメント」からの引用文句をつぶやくのも不自然だと思う。それに、野球部メンバーたちの前であんなに真剣な顔でそれを話したりしたら、普通は、メンバーたちから「かなり無理やりじゃね?」などとつっこまれるだろう。つっこまない周りのメンバーも不自然である。主人公が野球部の改善策を考える度に「「マネジメント」にこじつけるとこうなるのだ!あはは。」的に、ギャグっぽくやってくれれば、もうちょっと自然な感じになって、より気楽に笑い飛ばしながら見られたかもしれない。

 もう一つは、これは、作品の欠点ではないので恐縮だが、自分が野球にほとんど興味がないので、見ているのがやや退屈であった。

 イノベーションとして、ノーバント、ノーボール作戦などが出てきたが、それが現実的に可能かつ新しい革新とは自分には思えず、非常に無理のある案だと思ったのだが、どうであろうか。

 また、野球部のメンバーたちをグループに分けて競わせて、負けたグループにはグランド整備などをさせることにしたら、部員たちがやる気を出したというシーンもあった。部員をグループに分けて練習を試合形式でさせるのはもちろんよいのだが、罰に類するものを連帯責任的に与えるようなことをするのは、基本的によい方法ではない。これをやると、グループの成績を下げる要因となってしまったメンバーの、グループでの居心地を著しく悪くし、グループ内不和をあおって、部員同士の人間関係をかなり悪くする可能性が高い。教師を育成するようなコースでは、班分けを安易に好きな人同士で組ませるようなことと同様(←これは、子供の自由・自主性を尊重していていいではないか、と思うのは浅はかで、どこにも入れない子供が出て、それが誰の目にも明らかになってしまうから、これは避けるべきなのである。)、こういうことは非常によくないやり方の一つとして教えられることではないかと思う。この方法は、江戸時代の五人組制度みたいなもので、人々を強権的に統治する手法としてはともかく、各個人にとっては非常に窮屈で圧迫された心理的状態が強いられるため、ちょっと時代遅れのあまりいいやり方とは思わなかったがどうだろうか。

 というわけで、個人的には、ドラッカーの「マネジメント」を実践するという意味では、「もしドラ」は微妙だったのだが、終盤にかけて、ストーリーがなかなか感動的になっていて、そこは純粋にアニメとしてよかったと思う。野球の応援に来た生徒全員がピッチャーの好きな歌を歌い出すシーン(おいおい、いつの間に、全校生徒でアカペラで歌えるように練習したんだ?とは思ったが...(^^;)や、夕紀の死、それに動揺する主人公、主人公が最後に夕紀との過去を振り返って泣くシーンなどは、普通にアニメ作品のストーリーとして見ると、非常に感動的でよかったと思う。


 いずれにしても、ドラッカーのような知的な理論を、日常生活に適用して考えるという趣旨の思考実験は非常におもしろいものである。そういう意味で、本書も基本的なコンセプトとしてはたいへんよかったと思う。また、本書を読まなければ、ピーター・ドラッカーの「マネジメント」を一生知ることもなく生涯を終えただろう多くの人(自分もそのうちの一人であるが...。)が、こうした理論に触れるきっかけとなったという点でも功績は大きい。今後も、同様のコンセプトの本がどんどん出版されていってほしいと思う。
 だが、個人的には、ドラマとして終盤大いに感動したということは評価に値するものの、マネジメントを生かすという点で見ると、この作品は、やや期待を下回る作品ではあった。ただし、この評価は、自分が野球に興味のないところも大きいかもしれず、自分が野球が好きであれば、もうちょっと評価は高かったかもしれないことは、公平さを保つため付け加えておこうと思う。

(完)

光太
公開 2011年7月9日

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