緊急取調室


「緊急取調室」   (テレビ朝日) 2014年

評価: 87点


 このドラマは、なかなかおもしろい。
 ストーリーに不自然なところもあまりなく、安心して見ることができる(ただし、終盤を除く)。


○ 名作の第2話

 特に、第2話は名作だ。

 命の危険がある娘に、名医による手術を受けさせたい父親が、名医の殺人を見逃し、自分自身が容疑者となることと引き替えに、娘の手術をしてもらうという内容であった。

 自分が感動したのは、最後の部分である。

 終盤、黙秘を続けていた、この父親の自白により、その名医が犯人だとわかる。しかし、心臓病を患う娘の手術は、3日後に予定されている。この手術は非常に困難なため、この機会を逃せば、もう手術は受けられないかもしれない。娘は生きられないかもしれない。
 父親は、名医の逮捕を、3日間、待ってくれと懇願する。

 だが、真壁は、即座に逮捕状を請求する。

 これについては、捜査官たちの中でも、意見の対立が起きる。手術が終わるまで逮捕を待つべきだと訴える捜査官もいた。

 真壁自身も、当然、この娘に手術を受けさせてあげたい。
 でも、断腸の思いで逮捕状を請求した。

 このシーンを見て、なぜ?と思った人もいるかもしれない。
 しかし、この真壁の判断は、冷酷なようだが正しい。

 ドラマでは触れられていなかったが、逮捕すべき人間の逮捕を、こうした場合に、特例で一時的にでも猶予するというのは、著しい不公平に当たる。

 この名医には、手術を待っている、命の危機にあるたくさんの患者がいる。その患者たちは、長い順番を待っている。もし、ここで警察が、この娘の手術を受けさせるために、名医の逮捕を待つとすれば、どうして、その次に待っている患者の手術を受けさせるために、もっと逮捕を待たないのか、ということになる。捜査官たちは、この娘が、どんなにいい子供なのかをよく知っている。だから、捜査官たちは、この娘に、手術が受けられるようにしてあげたいと強く思っている。でも、その次に待っている人も、この娘と同様に、手術を心待ちにして日々の生活をしているわけである。捜査官たちが直接面識がないというだけで、この娘も、次に待っている人も変わらないわけである。

 捜査官として、この娘の手術を受けさせてあげられないことは、本当に悔しいことだと思う。
 見ていてそれが伝わってくる。

 真壁は、その後、手術を受けられなくなってしまった娘を見舞おうと、花を持って病院に向かう。しかし、病室の前で立ち止まり、病室には入らずに帰宅する。
 その判断は正しかったと思う。
 また、この時の真壁の気持ちは、察するにあまりある。

 この回は、本当に名作である。


○ 不自然な点

 次は逆に不自然な点も挙げておこう。
 最終話に向け、真壁の最も信頼していた梶山と、彼らの上司である郷原が、真壁の夫であった警察官の事件に関わっていたことが明らかになっていく。
 そのときのストーリー展開が不自然なのである。
 上司の郷原は、組織を改革するためには資金が必要だとして、裏金を作っていた。真壁の夫は、それを知ることになった。それを隠すため、真壁の夫は殺されたことがわかる。
 この展開において、どうも、梶山と郷原の描き方が不自然であった。郷原は、ずっと何かを隠している雰囲気を出していた。そして、梶山は、序盤から中盤まで、その郷原の意向を受けつつも、真壁やその夫の信頼できる友人として、描かれてきた。それが、終盤、一転して、梶山も真壁の夫殺しに関わっているかのように振る舞い出す。そして、最後、郷原は潔く当時の事件の内容を話し、梶山も説明する。そして、梶山は、やっぱりよき理解者だったのだ、的な雰囲気になる。だが、この動きに一貫性があるのだろうか?ストーリー展開的に、どんでん返しのように見せたいのはわかるが、人物像が一貫せず、ある時は意図的に善人のように描き、ある時は意図的に悪人のように描き、また、善人のように戻すのでは、ドラマとしていかがなものかと思う。何か大きな出来事をきっかけに、その人物の考えが大きく変化した、といった理由づけがあるならいいが、この展開はそうは思えず、微妙な気分が残った。
 とはいえ、自分が不満に思ったのはこの点だけで、その他については、非常によくできたドラマだと感じた。 


○ 最後に

 さて、このドラマの登場人物たちは、年齢が高い。いわゆる、おっさんたちとおばさんがメインであり、若くかっこいい俳優や若くてかわいい女優はメインメンバーにはいない。
 だが、そのおっさんたちとおばさんが、それぞれ過去を背負いながら、協力していくストーリーは非常にいい。みんな、理知的であり、思慮深い。熱血なだけのバカはいない。
 特に、終盤に向けて、メンバー間の信頼関係が高まっていくのもいい。

 こういうドラマがもっと作られてもいいと思う。


(完)

光太
公開 2014年9月15日

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