池井戸潤作品


 「半沢直樹」、「花咲舞が黙ってない」、「下町ロケット」、...。いずれも、見ていて本当に爽快な気分になる。

 まずは、とにかく悪い奴らが、主人公たちを困らせ、邪魔をし、主人公たちは窮地に陥れられる。「花咲舞」では、悪い支店長らに、行員たちがいじめられ、理不尽な扱いを受け続ける。
 そして、主人公たちの努力・活躍により、悪い奴らは最後、降参したり、罰を受けることになる。

 非常に心地よい。

 自分は、松本清張が亡くなっており、そして伊丹十三が亡くなり、山崎豊子が亡くなって、骨太のストーリーを提供できる作家がいなくなってしまうことを非常に残念に思っていた。
 しかし、池井戸潤は、そうした偉大な作家たちに匹敵する作家だと思う。
 これからも、どんどん、こうした作品を生み出してほしい。
 本当に楽しみにしている。

 以下は、各作品について短めのコメントを記しておく。


「花咲舞が黙ってない」   (日本テレビ)    杏 (主演)     2014年、2015年

評価: 89点


 銀行が舞台なだけに、半沢直樹を彷彿とさせる。
 悪役の登場人物たちは、ことごとくイヤな性格に描かれていて、最後にそうした人物たちがやられるのが非常に痛快である。
 「半沢直樹」より、だいぶコミカルで軽い感じであるため、ストーリー的に無理がある部分も、ほとんど気にならなかった。
 だが、ゼロではない。
 それについて書いておく。

 まずは、ちょっとしたことから。
 相馬は、いつも、最後には、花咲をサポートして一緒に悪い奴を懲らしめる。それは、正義感があるからである。
 しかし、いつも、最初は、協力したがらない。これは正義感があまりないことを示している。
 最初の一回は、正義感があまりなかった人物が、内なる正義感に目覚めて悪い奴をやっつけるという展開が使えると思うが、次の回でまた元に戻っているというのは、どうかと思う。
 そういう設定だというかもしれないが、あまりにも人格的整合性がない。

 だが、最大の疑問は、新藤派閥である。
 どうして、こんな人物を慕って派閥に入っている人間たちがたくさんいるのか?そして、どうして、その派閥に入っている人物たちは、揃いも揃って悪い人間たちなのだろうか?いくら、出世目的だけで集まっていると言っても、こんなにイヤな人間たちが、集団を形成できるのだろうか?

 それから、第二弾の一番最後、新藤常務は、銀行のことを真摯に考えている、なんだかいい人間のような展開になる。しかし、これは、それまでの新藤常務の振る舞いとは全く異なる。いつもは、かなりイヤな人間であったのに、唐突によい人になった感じであった。
 ちょっとご都合主義ではないだろうか。

 でも、このドラマも、非常に好きなドラマである。


「下町ロケット」   (TBS)    阿部寛 (主演)     2015年

評価: 97点


 すばらしいドラマである。
 悪役たちは、やっぱり、かなりイヤな人間に描かれている。

 困ったときお金を貸してくれない銀行の人々も、佃製作所の特許を不当に奪おうとする会社も、そうした会社を弁護する弁護士も、意図的に佃製作所に厳しい審査をして落とそうとする帝国重工の社員たちも、弟子の業績を横取りする教授も、落とすことを目的に悪意に満ちた審査をする審査官も...。

 このドラマを見ると、池井戸潤は、銀行のみならず、業界を非常に綿密に取材し、深い理解に基づいて作品を書いていることがわかる。
 本当にすごい。
 このドラマでは、ロケットと医療関係の部品を扱っていたが、それぞれの分野のことをかなり取材していないと、こうした作品は書けない。

 もちろん、いろいろな産業や業界の内部に通じている人物はたくさんいるが、非常におもしろい作品を生み出せる作家でありながら、そんなに業界の内部を詳しく調査している人物は、非常に稀である。

 そして、このドラマは、本当に感動する。
 心臓の弁を作ることを決意するときの、繊維会社の社長とのやりとりには、かなり泣いた。


「民王」   (テレビ朝日)         2015年

評価: 88点


 これは、「半沢直樹」や「花咲舞が黙っていない」や「下町ロケット」とはかなり違うタイプのドラマである。

 悪い奴が出てきて懲らしめるというものではない。

 そして、このドラマは政治が舞台であるが、やはり、総理大臣の仕事や環境をある程度把握していないと、こうした作品は作れないだろう。

 このドラマでいいのは、何と言っても、息子の翔くんの性格である。こんなに優しくて他人を思いやる人物は、本当に愛すべき存在である。それが、かっこいい男の子だというのがまたいい。

 自分は、翔くんが入れ替わった総理の言葉を聞いて、何度も泣いた。
 もちろん、翔くんが言っている内容は、現実にはそんなに甘いものではない。このドラマではうまくいってHappy Endになるが、こんなことでは、実際の政治では全然うまくいかない。
 そもそも総理大臣があんな振る舞いをしていたら、即座に適格性が疑われて、すぐに降板であろう。  だが、非現実的であっても、やはり非常に感動する。

 だた、ちょっと、警察官新田の変なイントネーションの部分は、自分には全然おもしろくなかった。あれがおもしろいと思う視聴者がいるのだろうか?
 ここまでおもしろくないやりとりをわざわざ挿入していることは、ドラマ中最大の謎である。

 このドラマはドラマ関係の賞いくつか取った。
 賞に値するドラマであると思う。


(完)

光太
公開 2016年2月21日

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光太の映画批評・ドラマ評・書評・社会評論