選挙制度が悪い!


 2014年12月の衆議院選挙で、自民党は圧勝した。475議席のうち、290議席を獲得した。

 その前の2012年12月の衆議院選挙でも、自民党は圧勝した。480議席のうち、294議席を獲得している。

 マスコミは、2014年の自民党圧勝の理由を、投票率が低かったからだろう、野党に魅力がなかったからだろう、消去法で自民党が選ばれた、などと、さももっともらしく解説している。

 しかし、この解説は、そもそもおかしい。

 国民は、与党の自民党・公明党に圧勝などさせようと思っておらず、そのように投票もしていない。

 2014年の比例代表の票を見てみよう。
 自民党33.1%,民主18.3%, 維新15.7%, 公明13.7%, 共産11.4%, 次世代2.7%, 社民2.5%、.....。

(当たり前のことではあるが、小選挙区では、全ての政党が候補を立てているわけではなく、本来、投票しようと思っている政党が候補を立てていない場合は、別の政党に投票するので、その票は参考にならない。従って、純粋に、自分の支持したい政党に投票できる、比例代表の票が各党の実力と言える。)

 比例代表では、自民党の票は、わずかに、33.1%である。過半数を大きく上回る議席とは全く異なり、半数にいかないどころか、たったの1/3である。
 これは、前回の2012年の選挙ではもっと低くて、27.6%であった。

 もし、選挙制度が、全国を対象とした比例代表制であれば、2014年選挙の自民党の議席は、158議席である。
 公明党と合わせても、半数に届かない。

 改めて各政党の、2014年の選挙結果を書くと、自民290、民主73、維新41、公明35、共産21、社民2、次世代2、生活2である。
 しかし、全てが比例代表制だったとすれば、自民158、民主87、維新75、公明65、共産54、社民12、次世代12、生活9となる。

 この比率を見ると、日頃なんとなく感じている、日本の国民の空気をだいたいつかんでいると思えると思う。
 自民党を強く支持している人は過半数を大きく越えている気はしないし、公明党には10%超の創価学会関係者が投票するだろうし、政府に批判的で共産党や社民党に入れる人も、そこそこいるだろう。

 だが、実際は、選挙制度のせいで自民党が圧勝したかのようになってしまっているだけなのだ。

 マスコミは、その部分をもっと報道すべきである。
 事実を無視した的外れな解説は、意味がないどころか、有害ですらある。読者に誤った認識を植えつけるだけである。

   そして、民主党をはじめとする政党たちも、この問題点を声高に訴えるべきである。本来自分たちが得るはずの議席が、過去2回は、不当に自民党に配分されているのである。それを追求せずに、受け流しているなど、お人好しにもほどがある。
 本来、民主党が得るはずの14議席分は自民党に、維新の党の34議席分も自民党に、公明党の30議席分も自民党に、共産党の33議席分も自民党に、社民党の10議席分も自民党に、不当に配分されているのである。自民党は、本来得られるよりも、132議席も余計に、多党の議席を奪っていることになる。
 自民以外の各党は、なぜ、すぐにでも、この不当な選挙結果に文句を言い、選挙制度を変えようとしないのか?これだけ議席を不当に奪われても、へらへらして文句も言わないでいるなど、「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」のごとき精神である。宗教的には崇高かもしれないが、政治の場でそこまでドMになってどうするのだろうか。

 比例代表で適切に議席を分配すれば、2014年の選挙の後でも、自民党、公明党だけでは過半数をとれなくなるから、最低限、他の政党を連立に加えないといけなくなる。連立組み替えである。
 そうすれば、政権の様相は大きく変わるだろう。

 比例代表に対しては、政権が不安定なるからだめだ、というような意見が、よく出てくる。
 しかし、ヨーロッパでは、議席をきちんと比例配分している国が多い。ドイツ、イタリア、スペイン、スイス、オランダ、ベルギー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ポーランド、オーストリア、チェコ、アイルランド...(国立国会図書館 2011)。これらの国々は、みんな、基本的に比例代表制なのである。そうしてきちんと民意を反映して議席を配分し、適宜、連立政権を作って国をちゃんと動かしている。
 それでいいのだ。

 民意をゆがめて、特定の政党に圧倒的多数を与えて、国民の考えとは離れた権力を作る必要はない。

 選挙制度の議論が新聞に載るとき、新聞の解説に、「大政党に有利な小選挙区制、小政党に有利な比例代表制」などと解説がされることがあるが、とんでもない。「大政党が、小政党の分の議席を不当に奪う小選挙区制と、民意をそのまま忠実に反映する公平な比例代表制」の間違いである。新聞記者は、よくよく理解してから記事を書いてもらいたい。理解しているのにこんな書き方をしているとすれば、大政党に有利な記事の書き方を意図的にしているとしか思えない。

 選挙が行われると、一票の格差の問題で、弁護士グループなどが、選挙後に一斉に訴訟を起こす。
 一票の格差をいつまでもほったらかしにして、特定の地域の人の一票が優遇されるような状況にしておく国会は、全く憤飯ものである。まともな国民なら、怒り心頭で憤死ししかねない。
 この問題は、もちろん大問題である。
 等価値の投票ができるように、明日にでも、各小選挙区の区割りをしなおすべきである。
 しかし、小選挙区制により、多くの人の投票した票、そして、その一票に込めた思いを、意図的に死票にし、投票されたわけでもない分の議席を、特定の政党が得てしまう現在の小選挙区制の不公平さは、一票の格差問題の何十倍も大きいのではないだろうか。
 あまりにもずうずうしい。

 小選挙区制は、二大政党制の国でしかまともに機能しない。日本はそもそも二大政党の国ではない。
 そして、人々の意識が多様な現在において、いろいろな政策を持つ幅広い政党が存在するのは当然である。そうした多様な政党が、実際に投票された比率で選ばれ、民意をきっちりと反映して選ばれた政党のうち、意見の比較的近いもの同士が集まって、連立政権を作っていく。
 これは、非常に自然なやり方だと思う。

 とにかく、現状は、民意がゆがめられ、不当な議席配分がなされている。
 一刻も早く小選挙区制をやめ、比例代表を元にした選挙制度に変えるべきである。
 そうすれば、日本の政治はそれだけで大きく変わることになるだろう。

 2014年の選挙の結果は、「自民圧勝」「一強多弱続く」などではなく、「自公半数割れ」「与党国民の支持得られず」「連立組み替えへ」であったはずなのだ。



参考文献
○国立国会図書館, 2011: 諸外国の選挙制度―類型・具体例・制度一覧―. 調査と情報-Issue Brief-, No. 721.

(完)

光太
公開 2015年5月7日

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