となりのトトロ


「となりのトトロ」   宮崎駿 (監督) 1988年

評価: 90点


 この映画は、個人的には、宮崎駿の映画の中で、2番目くらいに気に入っている映画である。この映画で何よりいいのは、自然豊かで懐かしい感じの田舎の情景、そして、子供の頃の感覚が、メイやさつきを通して非常によく表現されているところだと思う。

 特に、林の木々と木洩れ日、住むことになった古い家の様子、夕立が降ってきたときに雨宿りするシーン、メイとさつきが夜に畑で遊んでるときの涼しい感じのシーンなどの描写は本当にすばらしいと思う。
 そして、これから住むことになる家を見たときのメイやさつきのはしゃぎようや、お母さんに会いに行くときのメイやさつきの気持ちなど、子供の感覚も非常によく表現されている。

 大学の時、非常に感覚や分析力の鋭い、心理学の先生がいた。その先生は、よく、マンガなどを教材にして授業をしてくれた。その先生が、トトロについて、 「子供の頃には、想像上の存在がリアルに見える子供がいて、それは Imaginary Companion (イマジナリー・コンパニオン、空想上の友達)と呼ばれています。そういう子供たちは、誰もいないところに向かって実際に会話をしたりすることもあります。でも、成長するにつれて、だんだんそういうものを見ることはなくなっていくんです。トトロがそうですね。」 と言っていた。
 自分はこれを聞いて、非常に納得できた。
 授業の後でちょっと調べてみたら、こうした現象は、孤独感から生み出される要素があるそうだ。映画の中では楽しそうに見えた二人も、お母さんが病院にいたことの寂しさをずっと内に秘めていたということだと思う。エンドロールで、二人がお母さんに会った後、トトロは出てきていなかったと思う。お母さんが病院から帰ってくれば、二人がトトロを見ることはもうなくなるのかもしれない。

 いずれにしても、この映画は、ほのぼのした非常にいい映画であると思う。
 現代の、特に都市部の子供たちが、どのくらい自然と親しんでいるのか自分にはわからないが、できるだけ多くの子供たちが、この映画のような描写を見て懐かしいと思えるような体験を小さい頃にできるといいなあと思う。田舎に実家がある子供たちは、夏休みに田舎の実家に帰ってそういう経験ができるといい。帰る田舎がない子供たちは、人里離れた、自然のたくさんある田舎の民宿などに泊まり、昼は林でトンボやセミを採り、川の冷たい水に足をつけ、畑を行く風を感じ、夜は田んぼでカエルがうるさいくらいに鳴くのをきくような体験がぜひできるといいと思う。

 最近の宮崎映画はストーリーが支離滅裂で、おかしな点がたくさんありすぎて、とてもではないが、楽しく見ることができない。宮崎監督も、もう一度、このトトロのようなテイストで映画を作ってくれないものかと思う...。

(完)

光太
公開 2011年4月20日

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