はやぶさ 遙かなる帰還 (2)



これは(2)です。はやぶさ 遙かなる帰還 (1)から読むのをおすすめします。



○ 何が起きているかわからない...

 そして、もう一つ残念だったのは、はやぶさの帰還にとって、はやぶさがいろんな危機を乗り越えるのが大きな偉業のはずのなのだが、この映画を観ていても、はやぶさがどんな危機に陥っているのか、ほとんど理解できないことである。この映画では、専門用語は飛び交うものの、それが何を意味しているのか、普通の人にはほとんど理解できないだろう。また、技術者たちが忙しそうに何かをしているが、それが何をしているのか、また、どういう危機に陥っているのか、ほとんどわからないだろう。

 重要なことは、専門用語を使って、難しそうなことをやっている雰囲気を伝えることではない。はやぶさ描くなら、どういうことが次々に起き、それにそれぞれどう対処したかを、観ている人たちに概念的に伝えてほしかった。図などを書いて、わかりやすく説明してくれればいいのである。完全に正確でなくてもいいから、どういうことが起こっているのか、これから何をしようとしているのかを、CGでもホワイトボードに書いた図でもいいから、誰にでもわかるように教えてほしいわけである。

 この映画では、そもそも、イトカワが地球からどれくらいの距離で、どの辺りにいるのかもわからない。地球の重力を使って方向転換と加速をするスイングバイを行う、と言うが、どんな感じなのかが全くわからない。これは、簡単な太陽系のCGを入れれば一目瞭然にわかるのに、それをしていない。

 イトカワに弾丸を打って、砂を巻き上げてサンプルを採取するというのだが、その辺も、図や簡単な動画を使って説明してくれればよりわかりやすいのに、それをしていない。

 通信に16分かかるというが、そもそもその意味がよくわからない人もいるだろう。そういう人たちのために、太陽系の中のはやぶさがいるところまで、通信のための電波が光のスピードで進んでいってはやぶさに命令が届く様子などを入れればよいのに、そういうこともしない。こんなものは、CGで簡単に作れる。

 はやぶさがイトカワに着地するときに、バウンドしないよう工夫されているということで、お手玉が登場していたが、あの説明では、あのアイデアの重要性がよくわからない人が多いだろう。非常にもったいない。もちろん、あのお手玉が、アイデアの本質を示しているのはわかるが、「これでわかるだろ?」ではなく、そこをもっとわかりやすく説明してほしかった。

 2基のイオンエンジンのイオン発生器と中和器を連結するところも、言葉での説明と、よくわからない図が出てきたが、どういう役割の装置とどういう役割の装置を、どのようにつなげないといけないのかを、もっとわかりやすく説明できたはずである。

 イオンエンジンが止まっていった障害については、4つのエンジンを家族に例えるというわかりやすい方法を使っていた。だから、これには期待を持った。しかし、1つめのエンジン停止の時の説明はよかったが、いつの間にか最後の一つだけしか動いていない状態になっていた。このエンジンが減っていく時の危機感が全く伝わってこなかった。せっかく家族に例えたのに、それぞれの家族のメンバーへの愛着も語られることはなかった。


○ 結局

 これでは、この映画を観た人たちは、感動しないばかりではなく、あまりの退屈さに、映画を観たことを後悔するかもしれない。そして、はやぶさ自体に思い入れを持てないだけでなく、拒絶感すら持ちかねない。
 とんでもないことである。

 映画を高尚にしようと思ってこういう抑えに抑えまくったストーリーにしたのかもしれないし、正確さを期そうと思ったのかもしれないし、研究者たちがそうした構成を望んだのかもしれないが、これでは全然だめである。

 これだけ感動的で奇跡的で壮大な物語を題材に、有力俳優陣も揃え、映像もちゃんと作っているのに、これでは台無しだ。

 気取って、高尚っぽく見せようとするのではなく、恥ずかしがらずに、正攻法で、わかりやすく、感動的に作ってほしかった。

 映画人には、わかりにくい映画が質の高い映画のように勘違いしている人も多い。だが、わかりやすく、感動を誘うように、大衆的な映画を作ることが恥ずかしいことなのではない。

 これだけの物語を、感動できないように作ってしまうことの方がよっぽど恥ずかしいことなのだ。

(完)

光太
公開 2012年3月4日

気に入ったら、クリック!  web拍手 by FC2
光太の映画批評・ドラマ評・書評・社会評論